四方を海に囲まれた本道の沿岸には、産業と物流を支える港湾や漁港といった〝なりわい〟が各地にあり、多くの人々が海のそばで暮らしている。こうした地域の備えは十分だろうか。
本道は、全国の9%に当たる約3100km(北方領土除く)の長大な海岸を抱える。うち約2300kmが港湾、漁港区域外の建設海岸だが防潮堤など津波や高潮を防ぐ施設整備はあまり進んでいない。
東日本大震災を受けて道は2012年、渡島から根室までの39市町を対象に最大クラスの津波を想定した津波浸水予測を公表した。えりも町から根室市までの沿岸では、軒並み20m以上の最大津波高が予想されるなど、衝撃を与える内容だった。13年には、これら太平洋沿岸約1500kmを対象に、堤防や防潮堤といった海岸保全施設の設計に用いる津波水位を設定。多くの既存施設がこの水位を下回っていることが明らかになった。
その後、道は防潮堤など津波対策の社会資本整備優先度を最上位に引き上げ、設定した津波水位を基に整備を進める方針を決定。16年度は、関係機関との調整が済んだ豊頃町大津海岸で堤防のかさ上げに取り掛かるなど、設計津波水位の設定後、初となる津波対策のハード事業に着手する。16年度末には日本海沿岸の設計津波水位を設定する方針だ。
海岸保全施設は管理延長が長く、多額の建設コストが掛かり、道の財政的な制約もあって、思うように整備が進んでいない。13年度末の整備率は40.4%と、全国平均の64.1%を大きく下回っている。
建設海岸のうち、海岸保全区域の道内延長は全国の25%を占める。直近の関連予算は年間30億円強だ。道の幹部は「海岸事業は特に要望が多い」とし、「各地で事業化を待ってもらっている」と明かす。津波対策の推進には、積極的な予算配分が求められている。
津波被害を軽減するのは、防潮堤だけではない。沿岸部とそれ以外の地域を結ぶ高規格幹線道路も住民避難や救援ルートなどとしての役割がある。しかし、400―500年間隔で大津波の発生が予測されている太平洋岸のうち、釧路市―根室市間に高規格幹線道路はなく、現在は二十数kmが事業化されているにすぎない。
自然災害には、複数のハード・ソフト施策を組み合わせる多重防御が不可欠だ。最悪の事態を想定し、あらゆる段階で対策を講じることで、人命や後背地を守るという考え方だ。
ひとたび自然が猛威を振るえば、地域社会が窮地に陥ることを思い知らされた。安全・安心な地域づくりには、津波対策などの直接的な防災事業のほか、被災地域を救うための道路ネットワーク構築が不可欠であることを再認識した。こうした社会資本整備を今後も着実に進めることが、東日本大震災から得た教訓の一つである。
(2016年3月10日掲載)