北海道・モンゴル経済交流

北海道・モンゴル経済交流(6)

2017年10月24日 07時00分

若者の熱気に経済発展確信

 地道な交流重ねビジネス構築を

 「モンゴル国と気候が比較的類似した日本国の北海道とモンゴル国との間では、官民によるセミナーの開催を始めとした様々な協力が行われ、北海道の知見が共有され、北海道の民間企業による技術協力が進められた。こうした協力は、モンゴル国の発展のみならず、両国の地方自治体・民間団体間の交流の強化及び北海道の民間企業のモンゴル国での経済活動への足掛かりの構築に寄与した」

 これはことし3月、岸田文雄外務相とツェンド・ムンフオルギル・モンゴル国外務大臣が交わした「戦略的パートナーシップのための日本・モンゴル中期行動計画」の文言だ。2017年から21年まで5年間の日本とモンゴル関係のロードマップと位置付け、政治、経済、安全保障などさまざまな面から両国の協力関係をうたいあげている。

 中期行動計画は13年から17年までの計画で、そこにも寒冷地技術を共有することや本道企業との技術協力発展を明記している。政府間のコミュニケで国内の一地域である北海道との関係がうたわれている意義は大きい。

 道のまとめた「モンゴルと北海道の経済・技術交流」によると、札幌市や旭川市などの自治体をはじめ、北海道建設業協会、旭川建設業協会などの団体、岩田地崎建設、旭栄工務、いずみガーデン、高組、ケイセイマサキ建設、北電力設備工事、会沢高圧コンクリートなど北海道で培われた技術の供与が盛んだ。

 日本政府の開発援助も活発だ。新千歳空港から韓国の仁川空港を経由して降り立ったチンギスハーン国際空港に代わる新しい空港の建設が円借款で進んでいる。設計も施工も日本の企業だ。

 ウランバートル市内を走る車は中古車だが圧倒的にトヨタ車だ。バスによる移動の中、ガイドがしきりにシートベルト装着を迫る。理由は急ブレーキだ。後部座席の人が運転席まで飛んでくる心配があるという。元々馬に乗っていたモンゴル人の運転は非常に荒っぽいというが、渋滞が慢性化しているウランバートルではバックミラーがいまにも接触しそうに車が行き交い、車列の隙間に猛スピードで突っ込んでくる。

 都心の道路は舗装されている。しかし郊外の車道は舗装だが歩道は砂ぼこりが舞っている。高層のビル、マンションの間には草原の名残の空き地が垣間見え、急速な都市化を実感する。景気回復が進まないのか、鉄骨組みのまま放置されている建物が幾つも目に付いた。

 「AIZAWA MONGOL」では代金の受け取りはマンションの物納もあると聞いたが、車も使われている。トヨタの中古車ばかりの中で、ランドクルーザーの新車が憧れの車とも聞いた。市場経済化で貧富の差が出てきているという指摘もあった。

 ウランバートル市内には4つの火力発電所が立っている。燃料は石炭だ。家庭の暖房も石炭だ。必然的にばい煙、大気汚染が問題になる。空ばかりではない。トイレが共同で非水洗な所が多く、その解消も急がれている。

 しかし水洗化された国際空港のトイレに入ると小便器になぜかトイレットペーパーが投げ込まれていた。外務省ではペットボトルが放り込まれていた。人々の生活様式が急速な都市化にまだ追い付かないのかもしれない。

 1972年の札幌オリンピック開催を機に札幌ではばい煙は消え、都市部の高層化が進んだ。地下鉄も走り、高速道路や空港も整備された。彼らが札幌のエネルギーや交通事情に高い興味を持つのは当然だ。インフラ整備がこれからなのは誰の目にも明らかなウランバートル。しかし、北海道銀行の三上訓人ロシア室長が指摘するように、財源や金融システムに不安が残る。

 それにしてもモンゴルの若者は前向きだ。国立モンゴル科学技術大学を訪れたとき講義中の2つの教室に入れてもらった。どちらも教室内は熱気でむんむんしていた。日本の大学では失われた雰囲気ではないだろうか。モンゴル企業との交流で、日本語で積極的に声を掛けてきた男女はいずれも30代の起業家だった。

 外務省で五島冷熱の五島社長が自社で受け入れているモンゴル人研修生を評して「両親に一生懸命仕送りをしている。日本の古き良き時代をほうふつさせるこの姿に、モンゴルの未来が見える」と発言していたが、若者たちと接してまだまだ経済発展していくと確信した。

 ロシア、中国の企業も続々と進出してきているが、両国との道路整備は大きな課題だ。まして陸路でつながらない日本は物流ネットワークで大きなハンディを持つ。

 「われわれは親日だ」というラブコールにしたたかさも感じるが、道銀の三上室長が言うように政治の安定とインフラの整備を前提に「10年後は面白いと思う」。ミッションに参加した道の工藤公仁国際課長は「人的交流を積み重ねる中で、ビジネスとなるシステムを構築することが大事」と指摘する。確かなノウハウと地道な交流。北海道の企業に商機はあると感じた。(おわり)

2017年10月24日


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