タバコが健康に害を及ぼすものだということは、すでに常識です。日本の愛煙家は随分少なくなっていますが、最近は下げ止まりの傾向があるようで、やはり一定程度の人たちはタバコを吸っています。そういう人たちの中でも、何らかのキッカケで、禁煙あるいは卒煙を決心して、辛い戦いに入る人たちもたくさんいます。
今は、病院に禁煙外来も設けられて、薬物などを使った医学的な禁煙法も活用されています。しかし、禁煙の一番重要なポイントは、ご本人の禁煙への覚悟のほどであることは、間違いありません。なので、禁煙を継続しても、何かのキッカケで再開してしまい、「元の木阿弥」という人もたくさんいます。
有名なイギリスの劇作家、バーナード・ショウは、「禁煙なんて簡単だ。その証拠に、私は今まで100回も禁煙したことがある」といっています。本当に100回やったかは別にして、禁煙の誓いは、いつももろくも崩れていたようです。
禁煙を失敗させる、大きな理由の一つは、喫煙仲間の非協力です。「何だ、おまえだけ抜け駆けして!」と、禁煙している人に煙を吹きかけたりするのです。これは一種の拷問、いじめですね。それでも、折角の難行が水の泡となるのは、避けたいところで、グッと我慢というところでしょう。
ところが、禁煙している人には、大きなワナが待ち構えています。それが酒席なのです。酒席では周りの人がタバコを吸っているから影響されるのか?って、いえ!違うのです。私は、非喫煙者ばかりの酒席で、禁煙を始めたばかりの人が、酒席の最中に1人タバコを吸い始めるのを、度々目撃しています。もちろん、1人でも喫煙者がいれば、禁煙者は早速の「もらいタバコ」。努力は水泡と帰します。
酒席で禁煙が破れる最大の原因は、アルコールにあります。アルコールが体内に貯まると、脳神経が徐々に抑制されます。この際、抑制されやすいのは、脳のはたらきを抑制的にして、たしなみや自重の念を形作る抑制性神経なのです。
なので、酔っぱらってくると、基本的に自制心が失われます。元来、タバコが大好きな禁煙者は、「まっ、1本ぐらいいいか…」と思い始めるのです。周りにそれを止める権限のある家族がいない酒席では…禁煙を実行するには、禁酒が必要なのです。辛いですね…。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)