ビール、シャンパン、ハイボール、ジントニック。どれもおいしいお酒ですが、これらのお酒の共通項は何であるか、お分かりですか?すべて、炭酸を含んでいて、発泡するお酒だと言うことです。そして、実はこれらのお酒は、食前酒として飲まれることが多いお酒でもあるのです。ね、よく言うでしょう!「とりあえずビール!!」って。
宴会の口開けに炭酸の効いたお酒が好まれる理由の一つは、そのさっぱりとした口当たりです。炭酸の泡が口やのどをほどよく刺激すれば、気分もリラックスして宴会モードに突入です。ビールを一気にあおって「プッハー!」とか「しみる~」とかうめいている人がなんと多いことか。でも、食前酒として炭酸入りのお酒を選ぶことには、それ以上の効用があるのです。
お酒に含まれている炭酸は、チョットした衝撃ですぐに二酸化炭素と水に分解します。この二酸化炭素が泡の正体なのです。元来、二酸化炭素は粘膜や皮膚を通過することができる物質です。なので、胃の中に収まった食前酒から出てくる二酸化炭素は、すぐに胃の粘膜に吸収されます。
そうすると、二酸化炭素は粘膜の下にある血管に作用して、これを拡張させるのです。この作用は炭酸を含む入浴剤でも利用されていて、この入浴剤の入ったお風呂に入ると肌の血行が良くなって、体が芯から温まるのです。
血行が良くなった胃は活発に活動するようになり、胃液の分泌も促進されます。またアルコールには粘膜刺激作用があり、胃液の分泌をさらに増加します。この変化は脳に伝わり、食欲増進につながるのです。というわけで、食前酒の後の食事はよりおいしく食べることができるというわけです。
こうした炭酸を含むお酒の食欲増進効果は、昔から経験的に知られていたようで、いろんな種類の炭酸を含むお酒が、食前酒に採用されたのです。そういえば、先日、発泡する日本酒を試す機会がありました。そのうちこれも食前酒の仲間入りかな?
しかし、この食前酒の効用もほろ酔いぐらいまでです。それ以上杯を重ねると、アルコールによる麻酔作用が強くなって、炭酸の効果は打ち消されます。胃の動きは次第に緩慢になり、胃液の分泌も減ります。食べ物は胃に停滞する様になり、度が過ぎると逆流することになります。食前酒は軽く1杯、後は好きなお酒をほどほどに。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)