カラ酒という言葉をご存じですね。何も食べないでお酒を飲むことです。日本酒好きの中では塩だけなめてお酒を飲む人がいますが、これもカラ酒といえるでしょう。カラ酒は体に良くないことだということは、ご存じである方も多いと思いますが、実際、どのような問題があるのか考えて見ました。
カラ酒をすると、何も食べ物がない胃の中にお酒が入ります。そうすると、アルコールが胃の粘膜に直接触れることになります。アルコールは洗剤のような作用を示すので、胃の粘膜を覆っている粘液を洗い流してしまいます。
そもそも胃の粘液は、強い酸である胃液から粘膜を保護する作用を持っているのですが、粘液がなくなると、胃の粘膜は胃液に直接さらされることになります。こうなると、粘膜は破壊され、はがれてしまい、粘膜に炎症が起こることになります。
また、粘液がないことで、アルコール自体も胃の粘膜から吸収されやすくなります。吸収されたアルコールが胃の壁の組織を直接刺激して、胃液の分泌を促す可能性があるので、粘膜の炎症がさらに悪化します。
こうなると、痛みや吐き気が出たりします。つまりカラ酒を飲むと、急性胃炎になるということなのです。この急性胃炎はもちろんごく軽いものですから、すぐに粘膜が再生しておさまるのですが、カラ酒を繰り返していると、粘膜は傷んで、炎症が長引くことになります。
また、すでに胃かいようなどの病気がある時には、症状が悪化します。食べ物と一緒にお酒を飲むと、食べ物が胃にとどまって、お酒が粘液を流したり、粘膜に直接触れたりすることを防ぐことが出来ます。なので、お酒にはおつまみというのが、大人の養生法です。
ところで、カラ酒とはいかなくても、空腹で宴会がスタートして、まずは乾杯してお酒を一気に流し込むことは誰でもあるでしょう。すぐに何か食べれば、大丈夫かも知れませんが、やはり胃に負担をかけるのは間違いありません。
とくに乾杯のお酒がビールだと、炭酸が胃液の分泌を促す効果があるので、胃の粘膜はピンチです。宴会スタート前に、チーズをひとかけら食べると、チーズが胃の中で溶け拡がって粘膜を保護する効果があります。疲れやストレスで胃腸の調子が思わしくない方は、試してみてください。まあ、飲まないに越したことはありませんが…
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)