夜、帰宅してから一風呂浴びると、気持ちも体もリラックスして、疲れがとれます。でも、お風呂の人体への作用は単純ではなく、結構複雑です。
まず、自律神経の活動が大きく変化します。お風呂につかり体を沈めると、交感神経が働きます。交感神経は自律神経の一種で、緊張状態の際に働きます。お風呂に入ると皮膚の温度が上昇し、また水圧が体にかかるので、これが緊張を生み出します。交感神経により血管は収縮し、心拍は速くなるので、血圧が瞬間的に上昇します。
ところが、そのままお湯につかり続けると、次第に交感神経のはたらきは弱まります。お湯の温度に慣れてくると、気持ちがリラックスしてきます。これにより自律神経の一種である副交感神経が働き出します。副交感神経は体をリラックス状態にする作用があり、心拍が緩やかになり、血圧が下がります。
このリラックス状態により、気持ちも体も緊張から開放されるのです。しかし、この反応はお風呂の温度によって変わります。熱いお湯では交感神経のはたらきが強くなり、緊張がとれません。ぬるめのお湯では交感神経が弱くなり、副交感神経が強くなるので、リラックス効果が強くなります。
疲れをとると言うと、お酒も思い当たります。そこで、お風呂とお酒は結構つきものになっています。温泉に繰り出して、徹底的に飲む人がたくさんいますね。ところが、お酒とお風呂は一緒にしてはいけないものなのです。お酒は間違いなく心臓に負担をかけます。
酔っぱらってドキドキしない人なんていません。だから、酔っぱらったままお風呂に入ると、ドキドキはもっと強くなります。交感神経のせいです。一杯やっていい心持ちになると、風呂に入りたがる人がいますが、とても危険なのです。
夜、帰宅したら、風呂を先にしてからご飯で晩酌にしましょう。お酒を後にすれば、お風呂で副交感神経が働いて十分リラックスしてからお酒ですから、あっという間に酔いが回って、サッサと酔いつぶれます。でも、お酒が先で、眠くなってお風呂では、交感神経が先に働くので、心臓に負担がかかり、眠気も飛んでしまい、最悪、寝付けなくなります。
自宅でも、温泉地でも、「ぬるめの風呂が先、お酒後」が、おとなの養生です。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)