動物には、昼間に活動して夜は動かなくなる「昼行性」と、昼はあまり行動せずに夜に活発に行動する「夜行性」の習性を持つものがあります。私たち人類が属するほ乳類は、もともと夜行性であった、という学説があります。ほ乳類が地球上に現れたのは中生代で、その頃の地球は巨大な恐竜が地上の支配者でした。
一方、我々の祖先たちは、小さなネズミぐらいの大きさしかなく、恐竜には全く歯が立ちません。そこで、恐竜に見つかりやすい昼間は、森の奥に身を潜め、夜陰に乗じて、えさを求めて活動する生活をしていたと推測されているのです。今でもネズミは夜に活発に行動しますよね。
時代は過ぎて、恐竜は絶滅し、ほ乳類の時代になりました。こうなれば、えさが見つかりやすい昼間に行動する種類が増えるのが道理で、大半のほ乳類は昼行性になりました。こうして、昼に食物を手に入れて夜眠りにつく習性を身につけていた人類だったのですが、道具と火を手に入れることで状況に変化が起こりました。
道具を使って、より豊富な食料を手に入れ、体力がついた人類は、睡眠時間が少なくなりました。さらに、火を手に入れたので、夜の暗がりで行動することも可能になったのです。つまり、夕方、食事をしおえたあと、まだ、眠くならない時間帯が生まれたのです。
もちろんこの時間帯に道具を作るなどの手仕事をするわけですが、結局、「ヒマ」が出来るのです。人類は再び夜行性になったのです。このことと、人類の旺盛な繁殖能力を結びつける人もいます。まあ、それは、それとして、夜のヒマな時間をどう過ごすか、人が編み出した方法の一つがお酒なのです。
論より証拠、世界中のあらゆる民族が、必ずその民族独特のお酒を持っています。これは、人が道具や火を手に入れたタイミングとそう違わないころに、すでにお酒を手に入れていたことを意味しています。つまり、お酒は「夜の主役」なのです。なるほど、だから昼間にお酒を飲むと、どこかしっくりこない感じがするのか!
食後の夜の時間は、人類だけが手に入れた貴重な時間であるといえます。そしてその時間の主役がお酒なのです。と、考えれば、お酒を大事にしたいと思うようになります。「酒に飲まれちゃ、酒に失礼だ!」と、先輩が説教してくれましたっけ。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)