和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたとか。日本国民としてはたいそう喜ばしいことです。和食の特徴としては、低カロリーで栄養バランスがいいこと、食材の種類が実に豊富なこと、盛り付けが美しいことなど、いろいろ思い浮かびます。
以前、外国からのお客さんをもてなしたとき、日本らしいものとして、「そば懐石」のお店にお連れしたのですが、「ヘルシーなのは、当然だが、そばという素材だけで、どうしてこんなに色々な料理を作り出すことができるのか!?」と感心された覚えがあります。確かに、もりそばだけでなく、揚げそば、そばがき、そば味噌、そば茶など、いろんな料理に変化していました。このあたりの技の細かさも和食の真骨頂でしょう。
でも、同じ素材を色々な料理に変化せることができるのは、単に手先の問題だけではないように思います。私が思うに、日本人は繊細な味を見分ける力に優れていると思うのです。つい先日、ある居酒屋で出してもらった焼き海苔がうまくて仕方がありませんでした。
上燗のあては、味が強いものはお酒を台無しにします。程よくあぶった焼き海苔に、ちょっと本ワサビを乗っけて、溜まり醤油をすくって、口に放り込む。焼き海苔の香ばしさ、ほのかな塩味と甘さ。これを引き立てるワサビの香りと溜まりのあまじょっぱさ。酒のうまいこと!唸ってしまいました。こんなものさらりと出してくる板さんって、すごい!
生理学の研究によると、人の味覚が確立するには、子供時代に何を食べたか、その経験がものをいうのだとか。子供時代には嫌いな味だとしても、それを経験しておくと、大人になってから味覚の幅が広がるのです。そういえば、子供のころ、ぐちゃぐちゃに混ぜたシチューみたいな食べ物ばかり食べているアメリカの人は、味覚が大雑把なような気がしますし、実際、あちらでも子供時代に与えられた料理に問題ありとしている研究者もいます。
日本人が文化遺産となった和食を、今後も継承し育てていくことができるかどうかは、今の子供たちに、何を食べさせるかにかかっているのです。やっぱり、ハンバーガーやピザや牛丼だけでは、大雑把な味覚にしかならないでしょう。みなさん、お子さんの味覚を考えてください。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)