おとなの養生訓

おとなの養生訓 第56回「下戸」 肝臓の分解酵素働かず

2014年10月24日 17時06分

 お酒を全く飲めない人のことを、下戸(げこ)といいます。お酒は飲めるけど、好きでないから飲まない人ではなく、体質的にお酒に弱く、ほんの一口お酒を飲んだだけで、すぐに真っ赤になって、動悸が出て、苦しくなってしまう人のことを下戸といいます。

 こういう人は粕漬けに含まれる程度のアルコールで酔っぱらってしまいます。お酒に含まれるアルコールは肝臓にある酵素で分解処理されますが、この酵素が全く働かない人たちです。日本人の5%程度の人がこの酵素が働かないので、お酒を全く受け付けないのです。

 なぜ酵素が働かないのかというと、親から代々受け継がれた遺伝子に、はたらきがきわめて弱い酵素の情報が書き込まれているからなのです。ですから、下戸の人は、どうしたって下戸でなくなることはありません。

 俗に「お酒は鍛えれば強くなる」といわれていますが、全くの誤りなのです。下戸の人に「一口でいいから」とお酒を無理強いする人がいますが、これはいじめ以外の何物でもありません。厳に慎むべきなのです。

 ところで、下戸なのに酒席の付き合いを快く応じる人が私の身近にいます。ウーロン茶なんか飲みながら付き合ってくれて、3次会ぐらいまで一緒にいます。お酒も飲まないで長時間いるのですから、つらいはずなのですが…。

 余程周りに気を使ってくれているのかとも思ったのですが、本人に聞いてみると、「酒席で話をしていると、とても楽しいから」というのです。そうなのかと思ってみたのですが、どうも腑に落ちません。そこで、彼をよく観察して気づいたのです。どうも、彼は「酔っぱらって」いるのです。

 気分が上がって、顔もうっすら赤くなっています。下戸である彼は、もちろん一口もお酒を飲んでいません。でも、酒席の室内には、たくさんお酒が並んでいるために、アルコールが蒸発して漂っています。彼はその空気を吸い込んでいるので、それで酔っぱらっているらしいのです。

 下戸だから、空気に含まれるわずかなアルコールで適度に酔ってしまっているのです。酔っぱらっているのなら3次会までもいけるのでしょう。何杯ウーロン茶を飲んでも苦にならないのです。なので、私たち呑兵衛どもも、気兼ねなく彼を3次会まで連れまわすようになったのです。これは決していじめではありませんよ。

(札医大医学部教授・當瀬規嗣)


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