おとなの養生訓

おとなの養生訓 第58回「アルコール性記憶障害」 脳に麻酔、注意力が欠如

2014年11月28日 16時55分

 はっと気づいて目がさめます。自宅の布団のなかです。昨日、宴会でお酒を飲んでいたはずですが、どうやって帰ってきたか、全く分かりません。でも、ちゃんと服を着替えて、布団の中に入っています。

 恐る恐る家族に尋ねます。相当に酔っぱらっていたことは指摘されますが、ちゃんと自分で着替えたというのです。心配になってお財布を確かめると、ちゃんと宴会の会費を払っているようです。タクシーのレシートもあります。でも、2次会の途中から全く思い出せません…。

 アルコールは脳に対して一種の麻酔作用を示します。ある程度の量では、脳の活動を適度に抑えている抑制性神経を麻酔するので、むしろ気分は開放的になり、陽気になったり、感情が抑えきれなくなって、怒りっぽくなったり、泣き始めたりします。

 さらにアルコールが増えると、今度は脳全体に麻酔がかかり始め、判断力や注意力が失われてきます。さらに飲み進めると、記憶する力が失われてきます。物事が起こった時には覚えているのですが、そのあとで、起こったことを思い返そうとしてもできなくなるのです。

 アルコールのために、記憶を長く頭にとどめておくことができないのです。これをアルコール性記憶障害といいます。酔う前のことは覚えていますので、そこからお酒が醒めるまでの間の記憶がすっぽりと抜け落ちることになります。なので、ブラックアウトと呼ばれたりもします。また、酔っている間の記憶がところどころ残っている人もいます。

 実は、酔っているときに何もわからなくなっているのではありませんから、周りの人から見ると、酔ってはいるけど、ちゃんとしている、問題ないと思われていることの方が多いのです。現にお金もちゃんと払うし、自分で普通に歩くし、楽しく会話するし、タクシーに乗って住所を告げて、帰ることができるのです。でも、そのことを覚えていないのです。なので、本人は相当に不安になり、困惑するのです。

 アルコール性記憶障害だけでは、周りとトラブルを起こすことは少ないかもしれませんが、やはりアルコールが脳に障害を与えた状態ですので、芳しいことではありません。たびたび記憶を失う人は、軽いとはいえ脳にダメージが蓄積すると考えて、お酒を控えることをお勧めします。忘年会シーズンです。くれぐれもご用心を。

(札医大医学部教授・當瀬規嗣)


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