貴重な食材として、また絶好の珍味として、「何々のキモ」が珍重されます。キモとは一体何のことでしょうか。辞書でキモを引くと二つの漢字が出てきます。「肝」と「胆」です。
このうち「胆」は胆のうを示す漢字で、実は胆のうは漢方薬の原料にはなりますが、一般的に食材にはなりえません。なんといっても苦いからです。一方、「肝」は言うまでもなく肝臓を示す漢字です。動物の種類を越えて肝臓は食べておいしいものが多いのです。
牛や豚のレバーは言うに及ばず、鳥のレバーも串焼きや鳥肝の煮込みなど定番です。さらに他の動物の肝も食べられています。ウナギの肝焼き、肝吸い。アンコウの肝臓は「あんきも」。カニの肝臓は「カニみそ」です。小さいけど、えびのミソもうまい。イカの肝臓は「イカゴロ」と呼ばれて、イカ刺しの醤油に溶かすと最高です。極めつけはアヒルの肝臓、つまり「フォアグラ」でしょうか。
なんで肝臓はこんなにうまいのでしょうか。それは、肝臓が栄養を貯めるための臓器だからなのです。動物は様々な食べ物を摂取して栄養を吸収します。しかし、吸収した栄養をその場ですぐに使い切るとは限りません。
ならば、当座必要な栄養だけ取ればいいのかというと、1回食物にあり付いて、つぎにすぐに食物にありつくとは限りません。狩りや採取で食べ物を得る動物は、とくにそのリスクを背負っています。なので、食べられるときにできるだけ食べることになります。
こうなると吸収された栄養は当座余ることになります。そこで、それを肝臓に送り込んで貯蔵し、次に来る空腹時に備えることになるのです。肝臓には吸収された栄養を効率よく使うために、栄養を貯蔵し、あるいは貯蔵しやすい形に変化させ、逆に必要なときには貯蔵した栄養を動員して利用しやすい形に変える任務が課せられています。だから、栄養は肝臓に集まるのです。道理でうまいはずです。
ただ、フォアグラだけは、少し事情が異なります。ふつうのアヒルの肝臓は、ただの鳥レバーにすぎません。フォアグラにするためには、アヒルに強制的に高カロリーのエサを大量に食わせ続けることが必要です。これにより肝臓が肥大し、脂肪が大量にたまるのです。実はフォアグラはアヒルの脂肪肝なのです。キモを食べ過ぎて自分の肝臓がフォアグラにならないようご注意ください。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)