某テレビドラマの影響で、ウイスキーブームだとか。ウイスキーを楽しむ人が増えて、学生時代からのウイスキーファンの私は、わが意を得たりとしたり顔です。
ウイスキーを語るのに、最近は「スモーキーフレーバー」という言葉が頻繁に使われるようになりました。スモーキーフレーバーはいくつかの銘柄に特徴的な風味でありますが、すべてのウイスキーにスモーキーフレーバーがあるわけではありません。
でも、そのテレビドラマでは、初めてウイスキーを飲む日本人が、「煙臭い」といって吐き出すシーンがしばしば。ちょっとやり過ぎじゃないか!と思ったりしました。はたして日本人にはスモーキーフレーバーが合わないのでしょうか?答えは「ノー」です。
スモーキーフレーバーは、なにもウイスキーだけのものではありません。なんのことはない、つまり燻製の風味のことなのです。いうまでもなく燻製は食べ物を煙でいぶして作るものです。ですから燻製の風味を欧米ではスモーキーと表現するのです。ハム、ソーセージ、ベーコンなどみんなスモーキーです。
燻製なら日本人だって好きです。炉端につるした魚の干物、そう秋田には「いぶりがっこ」というたくあんの燻製もあります。だいたい、木炭で魚の塩焼きをすれば、ほのかに煙臭さを感じるものです。それはいやなものではありませんよね。
大昔の人間はたき火を囲んで、魚や肉を焼いて食べるのが、ごく当たり前だったのですから、たき火の煙を浴びながら食事をしていたわけです。煙が嫌いなわけはないのです。
では、ウイスキーで問題になっている風味の正体は何でしょうか?それはピートそのもののにおいです。ピートとは泥炭のことで、ウイスキーの原料である大麦を発芽させて、発酵の前に大麦の成長を止めるために火入れをするときに使います。それで煙と共にピートそのもののにおい、ずばり石炭のようなにおいが麦に移るのです。
このピートのにおいは長い熟成を経て、様々に変化してウイスキーに微妙なニュアンスを与えます。そのなかにスモーキーフレーバーと呼ばれる風味が生まれるのですが、ずばり石炭!といいたくなるようなお酒も存在します。つまりスモーキーフレーバーも一様ではないのです。
スモーキーフレーバーを持つウイスキーは燻製とよく合います。一番は、もちろんスモークサーモン。道理でうまいはずだ!
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)