卵は完全栄養食品といわれていました。とくにタンパク質やビタミンCを除くビタミン類を豊富に含み、高い栄養価が評価されていました。確かに、卵からヒヨコが生まれるまで、卵に含まれる栄養素だけで育つわけですから、完全栄養食品といっても問題はありません。
おまけに、日本では量産体制が確立して、「物価の優等生」といわれて、長年安い価格で維持されています。そういう訳で、卵は日本の食生活に深く根ざして、色々な用途に活用されています。ところが近年、卵は評判がよくありませんでした。それは、日本の食生活の欧米化が20―30年前に完了した以降のことです。
欧米化により日本人は高カロリー高脂肪の食事を普通にとるようになりました。その結果として、血液中の脂肪量が増えている高脂血症の人が増えて、その結果として動脈硬化となる人が多くなりました。
動脈硬化は高血圧、脳卒中、心筋梗塞など病気の直接の原因となることから、動脈硬化を防ぐために、高脂血症の治療や予防が重要視され、そのための薬も開発されました。高脂血症の人では、血液中のコレステロールが増えていることが重要視され、これを減らすためには、高カロリー高脂肪の食生活を改善する必要があると、考えられるようになりました。
そうした中で、卵がやり玉に挙がったのです。コレステロールが他の食品に比べて豊富に含まれているからでした。そこで、血液中のコレステロールの上昇を防ぐために、卵を食べるのは1日1個が限度であるという指導が広くなされたのです。これでは、卵焼きや目玉焼きを満足に楽しむことはほとんどできません。卵好きなお父さんたちは、我慢をさせられてきたわけです。
ところが、最近、米国の研究により、重大なことが明らかになりました。それは、食事に含まれるコレステロールの量は、血液中のコレステロールの量と直接は関係がないというものです。つまり、コレステロールを含む食品を食べても、血液中のコレステロールは増えないということです。
血液中のコレステロールが増えるのは、高カロリーの食事とか、体質とか、運動不足とか、そちらに原因があるという訳です。つまり、卵を我慢する必要は全くないという結論です。
卵は無罪放免です。存分に楽しんでください。ただ、食事量全体が増えるのはよくありませんので、お気をつけて。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)