動物は食べ物から栄養を吸収するために消化管を持っています。口から肛門まで、順に食道、胃、小腸、大腸と並んでいます。栄養を吸収するための器官であるからなのか、分かりませんが、栄養豊富な食材として利用されているのは、ご存じのとおりです。
本来の肉、すなわち骨格筋と違って、値段が安いせいもあるのでしょうか、庶民的な食材として利用されています。まず、何と言っても、焼肉でしょう。ミノ、ハチノス、センマイ、ギアラは牛の胃。ガツは豚の胃。モツ、ホルモンは豚の腸。コプチャン、コテッチャン、シロ、マルチョウは小腸。テッチャン、シマチョウは大腸です。モツは煮込み料理にも使われます。
ヨーロッパでも消化管は様々な料理に使われています。イタリア料理では胃と腸はトリッパと呼ばれて煮込み料理になっています。イギリスの北部、スコットランドでは伝統的な料理としてハギスがあります。羊の胃袋に心臓や肺などの内臓肉を詰めて煮込む料理です。胃袋を使う料理は、世界各地にあるようです。
消化管は管状になっているので、中に詰め物をする発想がすぐに出てくるようです。一番ポピュラーなのはソーセージです。ソーセージはギリシャ神話にも出てくるほど、古くからある料理です。ひき肉を小腸に詰めて、燻製にします。
使う腸の大きさで、名前がついていて、羊の腸を使うのがウィンナーソーセージ、豚の腸を使うのがフランクフルトソーセージ、ウシの腸を使うのがボローニャソーセージといいます。それぞれ都市の名前がついていて、そこの名産だったということに由来するそうです。
腸の中で、羊の腸は他の動物に比べて、とりわけ長いことで有名です。全長は30m以上になります。こんなに長い腸を見ていたら、何かに利用しようと考えるのは自然なことです。ソーセージはその一例なのです。
羊の腸は、他にもいろいろ利用されています。たとえば、バイオリンやギターの弦やテニスラケットの網を作るひもです。弦やひものことをガットというのは、ガットが腸を指す言葉だからなのです。
消化管をとことん利用するのは、ものを無駄にしないという人類の知恵のような気がします。もっと積極的に消化管を食べるのは、いいことかもしれません。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)