おとなの養生訓

おとなの養生訓 第86回「たばこのリラックス」 ニコチン依存症で錯覚

2016年03月11日 09時40分

 よく、たばこは「百害あって一利なし」といわれます。実際、たばこの主成分であるニコチンを用いた研究では、人に対して有用な効果は見いだされていませんし、タールの方は、発がん作用が認められているほどです。

 そんなに有害なたばこを吸い続ける愛煙家は、たばこにもメリットがあると反論します。それは一服吸うと、ふっと気分がはれて、体がリラックスするという感覚が得られるということです。そこで、仕事の合間の気分転換に有用だという訳です。

 そういえば、街角の喫煙所でほっとしたような顔で煙をくゆらせている人をよく見かけます。そこで、このリラックス効果がたばこの最大のメリットであると強調されています。

 そこで、ニコチンの作用を調べてみると、頻拍、血圧上昇、発汗、唾液分泌、胃腸運動亢進などがみられ、量が多くなると悪心、嘔吐、下痢が起こるとされています。

 作用を全体でみると体が興奮する方向の作用であり、体に負荷をかける作用があるといえます。ですから、「たばこを吸うと漬物石を1個、頭に載せているようなものだ」というたとえ話まであるのです。けっして、リラックスする方向の作用は認められないのです。

 では、なぜ愛煙家は一服吸うとリラックスすると感じるのでしょうか?その理由はズバリ、ニコチン依存症だからなのです。

 愛煙家は、いつも喫煙をしていることで、血液や脳内のニコチンの濃度が高く保たれています。高いニコチン濃度のために、体が次第に慣れて、体の生じるニコチンの作用は起こりにくくなります。この一種の慣れは脳においても起こり、逆にニコチンの濃度が減ると、脳は不安定になり、落ち着かない気分になり、たばこを吸いたいという気持ちが強くなってきます。

 そして、たばこを吸ってニコチンの濃度が高くなると、脳が満足して安定した状態に戻ります。これはまさしくニコチン依存症の反応なのですが、喫煙によって脳が安定した状態に戻ることを、「リラックスした」と感じることになるのです。つまり、錯覚なのです。

 むしろ、たばこにリラックス効果を感じる人は、ニコチン依存症であるといえるのです。ニコチン依存症の症状をメリットであるとは言えません。やはり、たばこにメリットはないのです。

(札医大医学部教授・當瀬規嗣)


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