焼き鳥屋さんや焼肉屋さんに行くと、様々な肉がメニューに載っています。ロースやヒレなど肉の部位を示すおなじみのものから、レバー、ハツ、ホルモンなど内臓の部位を示すものまで。あらかじめ知識や経験がないと、戸惑うことの方が多かったりします。逆に、そういったものをサラリと要領よく注文して、盃を傾けている人に出会うと、その格好の良さに見とれてしまいます。酒場でも勉強が必要なんです。
そんな、少し普通じゃないメニューとして、砂肝があります。串焼きにするとこりこりと適度な歯ごたえ、煮込みにしてもうまみのあるあれです。ところで、砂肝の正体はご存じでしょうか?
砂肝のありかは食道と胃の間であり、前胃とも言われているので、胃の前の方が変化して袋状になったものと考えられます。しかし胃より壁は厚く、これが特有の歯ごたえにつながります。
食道と胃の間にあるということは、消化器官の一部であるということです。砂肝の中には砂が入っているので、砂肝と呼ばれたり、関西ではスナズリと呼ばれたりするのです。この砂は食べ物を細かく砕くために必要で、これによって消化吸収を助けるのです。
どうして砂肝が必要かというと、鳥には歯がないからです。鳥の口はくちばしになっていて、食べ物を食いちぎることはできますが、そのあとは丸呑みになってしまうからです。丸呑みした食べ物は砂肝に入り、時間をかけて粉砕され、本来の胃腸に送られているのです。
つまり、砂肝は歯の代わりという訳です。なので、ニワトリを見ていると、たまに砂を呑み込むことがあるのですが、砂肝に砂を貯めるための行動なのです。
こんな話を酒の肴に、焼き鳥屋のカウンターで飲んでいると、生理学を勉強していてよかった、なんて悦に入ってしまうのです。でも、お肉の正体なんて聞きたくない、という人も少なからずいるので、注意が必要です。私はとかくあれこれ説明しすぎるので、娘あたりには嫌われていますが…。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)