デスクワークから忍者のような点検士に一変―。ロープを使って自由自在に移動する特殊技術「ロープアクセス(RA)」。高所や難所など、これまで直接対象物に触れることが困難だった場所にもアクセスでき、より高精度な点検調査ができる。建設コンサルタントのアイ・ティ・エス(本社・札幌)で、道内でもまだ数少ないRAを駆使した橋梁点検に女性技術者の清野郁恵さんが挑んでいる。
従来の手法と違って大掛かりな仮設足場や重機の使用が不要で、コストパフォーマンスに優れたRAによる橋梁点検は、近年需要が増加している。一方、下川俊克社長によると「技術取得の難しさなどから道内ではまだ専門的な技術者が少なく、本州から雇う会社も多い」という。そんな中、同社ではRAを使った橋梁点検のエキスパートの育成を目指している。
CADや図面作成、点検内容のまとめなどを中心とした業務に携わっていた清野さん。今村智専務に声を掛けられたことがきっかけとなり、ことしからRAの技術取得をスタートした。現場に出る機会は多くなかったが、「外の仕事が分かった方が、中の仕事のためになる。高い所に抵抗もなかったので、自分でもやれるんじゃないかな」と、思い切って飛び込んだ。
体を支えるのは、太さ9㍉の強じんなロープ2本のみ。足先と胸元をつなぐロープを足で踏み込むように動かすことで、体を上下に移動させる。水平移動ではカラビナを橋の隙間に掛けながら進んでいく。
難しいのは桁下への移動。時間をかけず、最小限の工程で移動するためにも、なるべく遠くにロープを掛けたいが、橋の構造によって自分の命を預けられる箇所は違う。
清野さんは「まだたどり着くだけで精いっぱい。降り方や移動の仕方をちゃんと教えてもらえるうちはいいが、自分で判断して動かなければいけなくなると難しくなると思う」と話す。点検のために、まずはスムーズな移動を身に付けることが一番の課題だ。現在は同社が訓練のために札幌市から借りた高さ6m程度の橋で訓練を積んでいる。
清野さんによると、力を使わないRAは「女性向き」だという。練習の様子を知る今村専務は「男性と違って筋力や体力が少ない分、逆に完全に身体をロープに預けて、力をかけないように動けている。ロープと自分の体をうまく作用させている」と清野さんに筋の良さを感じている。
ことしは橋梁調査会が実施する道路橋点検士の資格も取得し、点検知識や技術の向上にも抜かりはない。来年の現場デビューに向けてこれからも一歩ずつ前に進んでいく。