レストランや割烹などでコース料理を頼むと、一番初めに前菜、和食でいうと先付けが出てきます。いくつかの料理を組み合わせたものが多く、量はまさに少しずつという感です。量は少ないのですが、味付けはしっかりしているものがほとんどです。もちろん、口に運ぶとそのしっかりとした味が口の中に広がり、思わず「うまい!」なんてつぶやいてしまいます。すぐになくなってしまうので、「もっと食べたいな…」と思ったりして…。
実は、この「もっと食べたいな」と思わせるのが前菜の役割なのです。しっかりとした味付けは、胃の運動や胃液の分泌を活発化させます。これは、食欲を増進させる効果もあります。
そこへ少量である前菜が胃の中へ入ってくるだけですから、満腹にはもちろんなりません。そこで、「もっと食べたいな」と思うようになります。かの美食家、北大路魯山人は良い前菜について「食べてなお、腹のすく感じ」と表現しています。これで、次の料理への期待が高まるのです。
前菜は英語では「appetizer(アペタイザー)」といいます。実は食欲のことを「appetite(アペタイト)」というので、前菜(アペタイザー)には「食欲をそそるもの」という意味が含まれています。よい前菜が出ると、そのあとの料理がさらにおいしくなり、コース料理全体を心地よく楽しめるという訳です。
前菜の味付けは、胃の運動を刺激できるような強いものが適しています。そこで濃い目の出汁で煮た小さな煮物や、酸味が効いた酢の物、塩味が効いたチーズなどが選ばれます。ピリッと辛めのレシピもいいかもしれません。
さらに前菜と同時に飲むお酒にも工夫しましょう。ビールやシャンパンなど、発泡酒が最適です。泡の正体である二酸化炭素は、胃の粘膜を刺激して粘膜の血行を促し、胃の運動を活発化させる効果があります。少量のアルコールにも同様のはたらきがあります。なので、発泡酒と前菜を合わせると、食欲増進効果は倍増されるという訳です。「とりあえずビール!」は正解であると言えます。他にはシャンパン、最近はハイボールも飲まれるようです。
これから宴会シーズンです。宴会が続くと、さすがに疲れが出て、食欲がもう一つ、ということもあるでしょう。こういう時こそ、前菜をうまく利用して乗り切るというのはどうでしょうか。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)