飽食の時代といわれる現在の日本。食べ物は豊富に存在し、必要な栄養素を摂取することにさほど手間はかかりません。肥満の人が増えている現状を見ると、むしろ栄養過多の人が多いと推定できます。しかし、そんな現代に、栄養失調となっている人たちが、少しずつですが、増えているといわれています。
必要な総カロリーは満たされているので、食べ物の量が足りないという訳ではないのですが、タンパク質の摂取量が不足している人が、とくにお年寄りで増えているというのです。新しい形の栄養不足として、新型栄養失調といいます。
なぜ、タンパク質不足になるのかというと、年を取ると、肉や魚を食べる量が減ってしまうからです。身体の活動が低下し、食事をすること自体がおっくうになりがちです。そこで、簡単に食事を済ませようとします。
そうなると、手間がかかるおかずを作ることが省略されて、ご飯とみそ汁だけとか、麺類のみという様な食事を多くとることになります。こうして、タンパク質の摂取量が減るのです。
また、肉は脂肪が多く含まれていることから、脳卒中や心臓病などの生活習慣病を予防するために、肉を敬遠するお年寄りも多く、そのためにタンパク質不足になってしまうのです。
タンパク質の摂取量が減ると、筋肉が痩せてしまいます。ただでさえ、老化現象として、筋肉量は次第に減っていくのですが、それにタンパク質不足が重なると、筋肉量は急激に減ってしまうことになります。
筋肉量が減れば、筋力が低下するわけですので、運動ができなくなります。そして、立ち上がる、歩く、といった日常の動作にも支障が出るようになり、ついには寝たきりになってしまう恐れがあるのです。
また、タンパク質不足は、骨にも影響して、骨粗しょう症を悪化させます。日常の動作で簡単に骨折してしまうことになり、これも寝たきりの危険性が高まります。
そこで、お年寄りこそ肉を積極的に食べるべきだというのが、最近の考え方です。気になる脂肪ですが、最近の研究で、食事に含まれるコレステロールは、血液中のコレステロール量にあまり影響を与えないことが分かってきました。少なくとも赤身のお肉なら、コレステロールを気にすることなく食べることができるという訳です。お年寄りはバリバリお肉です。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)