高血圧症は、心不全、脳出血など深刻な病気の原因となるものですが、高血圧症の発症には生活習慣の偏りが大きく関係しているといわれています。とくに重要視されているのが、喫煙と塩分摂取、そして肥満です。それらと並んで言われていたのが飲酒です。習慣的に飲酒をする人の血圧が、そうでない人の血圧より高いという調査結果があるためです。分量にすると1日に日本酒1合、あるいはビール大瓶1本、またはワイン2杯を目安にそれ以上の量で血圧が高くなります。
しかし、アルコールの血圧に対する直接の効果を調べると、ちょっと違う結果になっています。実は、お酒を飲んでいる最中には、むしろ血圧が下がる傾向があります。顔が赤くなる人はとくに血圧が下がります。アルコールが代謝されて生じるアセトアルデヒドの作用です。血圧が下がるので、それを補うために心拍数は増える傾向があります。
また、アルコールは体脂肪を回収処理する役割があるHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)を増やすので、高血圧の原因である動脈硬化を防ぐ作用も期待できます。実は、アルコールは高血圧を防ぐ作用も期待できるという訳です。
最近の研究では通常の飲酒では、昼間の血圧は高めですが、夜間の血圧はむしろ低めということが明らかになりました。飲酒は、昔いわれていたほど血圧に悪影響を及ぼすわけではないようです。
先に述べた、習慣的に飲酒をする人の血圧が高いという結果は、アルコールの直接の影響というより、飲酒に伴う塩分の摂取が関係しているようです。考えれば、お酒のおつまみは干物、チーズ、ハムなど塩分を多く含むものばかりですね。また、習慣的に飲酒する人はカロリー摂取量も多くなり、肥満の傾向が強いためということも考えられます。
では、血圧を意識した場合、飲酒はどう考えればよいのでしょうか。現在、血圧が正常の方は、それほど気にせずお酒を楽しんで良いと考えられます。ただ、喫煙の習慣のある方や肥満のある方には飲酒は控えめにすることが必要です。すでに血圧が高くなっている方は、飲酒量を減らす努力をされた方が、長い目で見た時、得策といえるでしょう。いずれにしても、おつまみはなるべくしょっぱくないものを。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)