ホタテのバター焼きや貝殻焼きは、まず、大きな貝柱が目を引きます。実際、適度な甘みがあり、食べ応えのある部分です。その傍らに濃い緑から黒色に見える塊があることがあります。これは「うろ」と呼ばれる部分です。うろは苦いけどうま味があるからと好んで食べる人もいる一方、毒が含まれているので、調理しないで捨てるべきだという人もいます。はたして、本当はどうなんでしょうか。
そもそも、うろとは何でしょうか?生物学では中腸腺と呼びます。人が持っている肝臓と膵臓が一緒になったものです。つまり肝臓のようなものなのです。ですので、肝臓としての働きを備えています。
加えて、人では古くなった赤血球の分解処理に当たりますが、貝には血液がないので、これは関係ありません。そして最後に、体に生じた有毒物質の分解処理、つまり解毒作用を持つことが挙げられます。
うろが苦いのは、作られた胆汁が溜まっているためです。黒っぽい色も胆汁のためです。うま味を感じるのはうろに栄養素が貯蔵されているためで、鳥のレバーやカニみそがうまいことと同じといえます。
一方、うろが有毒だというのは、肝臓の解毒作用と関係があります。ホタテは海中のプランクトンを栄養としていますが、そのプランクトンの中には有毒物質を作り出すものがあります。少量なら肝臓で解毒され全く問題を起こしませんが、たくさん摂取すると、有毒物質は処理しきれずに肝臓に蓄積するようになります。これを貝毒と呼びます。貝毒が溜まったうろを人が食べると、食中毒を起こすことになります。これはフグの肝臓にフグ毒が溜まるからくりと全く同じです。
しかしながら、ホタテの場合は、常に貝毒が溜まっているかというと、そうではありません、ホタテが養殖されている海域に有毒なプランクトンが大量発生した時のみに見られることが分かっています。現在、出荷している各漁協では常に貝毒の有無を検査しています。うろを食べること自体は好き嫌いがありますが、そんなに心配する必要はなさそうです。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)