日本人の3割近くの人は朝食を食べないといわれます。朝食抜きという選択肢がない私にとっては、想像しにくい朝の風景です。単に、時間がないとか、食欲が出ないとかいうのが理由なだけでなく、積極的に朝食を抜くことで、健康法になると考えている人も多いと聞きます。そこで、医学ではちょっとした論争が展開されています。いわく、「朝食を抜くべきか否か?」。
朝食を抜くことのメリットとして一番に思いつくのは、いわゆるダイエット効果です。1日で食べる総量が減るから、その分太らないという訳ですが、なぜか朝食を抜くことを選ぶ人が多いようです。
太らなければ、糖尿病などの生活習慣病の予防になります。また、朝食を抜くと、前日の夕食から当日の昼食まで、長い時間食べないことになるので、一種の飢餓状態となり、これが脳を活性化させて疲労感がとれるという説もあります。飢餓状態は長寿遺伝子を作動させるので、長生きになるという説まであります。
一方、朝食を食べるべきであるとする説では、その飢餓状態が体に悪影響を及ぼすと考えています。飢餓状態のために脳へのエネルギー供給が減って思考力が下がると指摘する人もいます。
また、飢餓状態のために、とくに昼食を多くとることになり、逆に過食になるということも考えられます。さらに、飢餓状態に対する防御反応として体にエネルギーを貯めこむしくみが効率化して、むしろ太りやすくなるというのです。
こうしてみると、朝食抜き派はメリットを強調し、朝食派は抜くことのデメリットを強調しています。これでは水掛け論です。
では、朝食をとることに積極的なメリットはあるのでしょうか?朝食抜き派は、朝食を単なる習慣に過ぎないととらえています。だから、食べ過ぎなのだと。でも、朝食を食べることで、エネルギー供給が増え、体が目覚めて行くというのは利点でしょう。
人は午前中に脳が活性化し、集中力が高まることは明らかです。つまり、午前中が仕事の効率が一番いいのです。だから、朝食で十分なエネルギーを得ておけば、仕事の効率は倍加されると期待できます。昼食を減らせるのもメリットです。たくさん昼食を食べると、午後の仕事の効率が落ちることも指摘されています。やはり、朝食はしっかりとった方が、ビジネスマンにはメリットです。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)