スイカを食べるとき、食塩を添えることは、かなり一般的です。スイカに塩をかけると、もちろん、塩味を感じるのですが、次の瞬間、スイカの甘味が強調されておいしく感じられるのです。実は、汁粉や甘酒に塩を一振りすることで、甘さが引き立つことが分かっています。そういえば、和風の甘味処では、汁粉やぜんざいの添え物としてしょっぱい漬物がついてきますが、これも、甘さを引き立てる効果を狙っているのです。
一方、みそ汁にも塩味とうま味の効果があります。うま味であるだし汁は、それだけではぼやっとした味で、甘いのかしょっぱいのか分かりません。また、単純にみそをお湯で溶いても、ただしょっぱいだけです。しかし、この二つの味を合わせると、おいしいみそ汁が出来上がります。すまし汁もだし汁だけでなく、一振りの塩で完成するわけです。
このように、塩味は甘味やうま味を引き立てる効果があり、これを対比効果と呼んでいます。だからなのか、日本人は甘じょっぱい味が大好きです。煮魚、肉じゃが、すき焼き、かば焼き等々…。これがまた日本酒に合うから困ったものです。
塩味には、もう一つ別な効果があることが指摘されています。それを抑制効果といいます。酢はそれだけだとツンツンとして、ひたすら酸っぱいだけですが、寿司の中では酸味が和らいで、酸っぱさがうまさに変わります。これは酢飯の塩味やつけ醤油などが、酢の酸味を適度に抑制する効果を示すからなのです。
塩味は苦味に対する抑制効果も指摘されています。本来は苦いだけのビールですが、色々なつまみと一緒に味わうと、苦味のカドがとれておいしさに変わります。枝豆、ポテトチップス、ピーナツなど塩味の強いつまみがビールに合うのは、このためだといわれるのです。
こうしてみると、塩味はとても大事なはたらきをしているのが分かります。かといって、少しでも塩を多くしてしまうと、もう塩辛いだけで食べられたものではありません。ほどほどの塩がいいのです。塩味は料理をまとめるものだと、料理人に聞いたことがあります。料理にあたっての塩加減は料理の良しあしを決めるわけです。塩分に気を付けなければならない方、塩味はほどほどがいいのですよ。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)