昔の話です。私が本州の研究所に在籍していた時の友人の災難話です。とあるおすし屋さんに行って、おいしいネタを存分に味わって、ご帰宅。その夜中に突然の激しい腹痛。胃がキリキリと痛み、脂汗が噴き出たそうです。そのまま救急車で病院に。
緊急の胃内視鏡で原因は取り除かれて、うそのように痛みは治まったそうです。原因はアニサキスという小さな魚の寄生虫でした。おすしで寄生虫に襲われた原因は、イカの握りずしでした。生のイカを細切りにせず、刺身のように大きく切って握ったものでした。
この話を聞いて、北海道出身の私としては、どうしてそんなすしが出てきたのか不思議でたまりませんでした。イカにアニサキスがいるのはほぼ当たり前で、生で食べるときは丁寧に内臓を処理したうえで、いわゆるイカソーメンの状態に細切りにして、アニサキスを退治しておかないと激しい胃の痛みに襲われる危険性が高いからです。
アニサキスはイカやサバ、サンマ、ニシン、アジなどの魚にふつうに住んでいる寄生虫です。熱や冷凍により死んでしまうのですが、冷凍せず生のままで調理すると体に入ってしまいます。アニサキスは胃に入ると胃酸を嫌って胃の壁に刺さって潜り込もうとします。これが刺激になって胃で激しいけいれんが起こり、激痛やおう吐に苦しむことになります。これをアニサキス症と呼びます。
最近、アニサキス症の被害がマスコミをにぎわしています。有名タレントの何人かも被害をこうむったようです。アニサキス症は昔から知られているのに、なぜ最近急に流行り(?)出したのでしょうか?それは、日本人がグルメになったせいかもしれません。
最近のアニサキス症の原因はイカではなく、サバやサンマだそうです。昔ならとても刺身にはできないものでしたが、流通機構の発達で、冷凍せずに漁港から生きのいいサバやサンマが消費地に急送できるので、新鮮だからと、刺身にして食べてしまうのです。
でもいくら新鮮でも、アニサキスはいます。サバやサンマを刺身として食べるときは、一旦冷凍してから解凍したものにするべきです。解凍したのはおいしくないって?いいえ、決してそんなことはありません。解凍したサンマの刺身、本当にうまいですから。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)