鉄道遺産を守れ(下) 旧国鉄士幌線橋梁群

2018年02月14日 16時00分

 「最近は崩れそうになかった部分も壊れ始めている。直せないのは仕方がないが、今の姿を少しでも多くの人に見てもらいたい」。30年以上にわたって旧国鉄士幌線タウシュベツ川橋梁を見てきたNPO法人ひがし大雪自然ガイドセンターの河田充代表は寂しさをにじませながらこう語った。古代遺跡を思わせる風貌と季節ごとに変化する景観の美しさを備えるこの橋は北海道観光振興機構や全国安全週間のポスターにも採用されてきた。観光客にも高い人気を誇るが、風化による崩壊は誰にも止められない。

 1937年に完成した同橋梁は長さ130m、高さ約10m、径間10mのアーチが11本連なる鉄道用コンクリートアーチ橋。55年に糠平ダムの建設でダム湖が造られ、湖を迂回する新たな鉄路が敷かれたことから橋はダム湖の底に沈んだ。季節やダムの発電量によって湖の水位が変化し、渇水すると橋の全貌が見渡せることから「幻の橋」とも呼ばれている。

崩落した破片が橋脚付近にいくつも積み重なっている

 橋梁群の見学ツアーでも目玉になっているが、水圧やコンクリート内に浸入した水の凍結融解作用の繰り返しで躯体の損傷が年々広がっている。2003年の十勝沖地震や16年の台風災害でも深いダメージを受けた。  他の橋梁群と異なり鉄筋コンクリートで造られた枠の内部に割り石を詰め込む手法で造られたため、外側が割れてしまうと崩れやすい構造になっている。現在は崩落したコンクリートの一部が橋周辺にいくつも転がっていて、さび付いた鉄筋がむき出しの状態だ。

 帯広市から車で1時間半かかり、夏から秋にかけて水没するため観光資源として費用をかけて修復するのは難しい。所有する町としても保存の予定はなく、今はただ朽ち果てていく様を見届けるだけしかない状態だ。

■「幻の橋」3Dで記録

 崩壊の時を前に見学ツアーは過去最大の客入りとなっている。河田代表によると17年は例年の2倍に相当する8000人が参加。4月に橋梁の完全な姿が見られる最後の年と報道されたことやSNSによる口コミ、アニメ映画に登場する橋梁のモデルになったことで人気に火がつき、橋梁を見下ろす展望台には道内外から約5万人が訪れた。

 そんな中、最新技術を活用して保存しようとする動きが出てきた。見学に訪れた研究者の勧めでタウシュベツ川橋梁の3Dデータを取ることになった。ひがし大雪自然ガイドセンターが北王コンサルタント(帯広)に委託し、例年に比べて水位が低かった昨年7月に測量、9月にドローンを使って周囲を記録。橋梁全体の寸法はもちろん、コンクリートのわずかな凹凸や湖底の切り株や草木まで忠実に再現したデータを作成した。

■最新技術生かした保全の動きも

 データは北海道150年事業である「とかちの北海道みらい事業」にも使われる。河田代表はデータの活用法について「アーチ橋の話題づくりになるよう検討する。もしどこかで復元する機会があれば細かい寸法などが分かる貴重なデータになる」と話した上で「アーチ橋をきっかけにかつて十勝を支えた士幌線の歴史や大規模な伐採からゆっくり回復しつつある豊かな自然も知ってほしい」とガイドとしての思いを語った。

 厳しい自然環境にさらされ80年。橋梁群の風化は激しいものになっている。ただボロボロになった躯体には自然との調和を目指し建設に携わった人々の思いや十勝の産業の歴史が詰まっている。その記憶まで風化させないよう地元住民が中心となって橋を次の世代まで守り続けていく。


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