バーでウイスキーを飲むとき、飲み方としてオンザロックを選ぶ方が多いと思います。カウンターの上で、氷が入ったロックグラスがバーの淡い照明に映えて、素敵に輝きます。バーならではのムードを感じるには最適といえます。ただ、オンザロックは飲むのが難しいお酒です。
ウイスキーを氷で冷たくして、スッキリと飲むのが目的なのです。でも、出されてすぐに、一気に飲んでしまっては、ストレートと同じで、あまり冷たくなく、折角のロックグラスの風情も楽しめません。かといって、あまりゆっくりたしなんでいると、氷が溶け出してウイスキーが薄まってしまい、ウイスキーの香りと味わいが損なわれてしまいます。
適度なスピードでたしなむものという訳ですが、そうなると、氷の溶け方を計算しなければなりません。もし、氷の溶け方が速いと、ゆっくりオンザロックを楽しむことは難しくなります。そこで、なるべく溶けにくい氷の形を、バーテンダーさんたちは工夫しています。
オンザロックの氷は、冷蔵庫の製氷機で作った小さい角氷を数個入れるのが一般的でした。でも、それでは溶けやすいということで、今のバーでは丸く大きな氷、あるいは、大きな箱型の氷を1個入れるのが、多くなりました。この方が、氷が溶けにくいからです。
小さな角氷は、体積に対する表面積の比率が大きくなります。つまり、氷がより広くウイスキーに接しているので、氷が溶け出す量が多くなるのです。一方、丸氷にしろ、箱氷にしろ、ロックグラス一杯に入る大きな氷は、体積に対する表面積の比率が小さくなりますので、氷が溶け出す量が少なく抑えることができるという訳です。また、小さな角氷では、結果的に角や縁の数が多くなります。氷は角や縁のあたりが溶けやすいともいわれるので、この効果も考えられます。
大きな丸氷は、バーテンダーさんが、手でアイスピックなどを使って、1個1個削り出している場合が多いのです。そうまでして、おいしいオンザロックを出そうと頑張っているのです。だから、オンザロックの氷はなるべく溶かさないように味わいたいものです。グラスを手に持って回したり、指で氷を回したりするのは、溶けを速めるので控えたいところです。ちょっと粋には見えるのですがね…。
(札医大医学部教授・當瀬規嗣)