必要な道路空間が少なく、設置と撤去が容易で低コスト―。暫定2車線の高速道路で走行車両の正面衝突を防ぐため、寒地土木研究所の寒地交通チームが開発したワイヤロープ式防護柵の試行設置が2017年春から全国で始まり、一定の成果を上げている。17年10月現在の中間報告によると、全国113・3㌔区間で、16年度は45件に上った飛び出し事故が1件に抑えられ、死傷者はゼロを記録。国土交通省高速道路課は「安全対策としての標準設置を検討していく」との考えを示し、今後の設置加速が見込まれている。(建設・行政部 小野 悠希記者)
■寒地土研がワイヤロープ式防護柵開発
中央線の舗装に柔らかく折れやすい支柱を挿入し、5本のロープを等間隔で支柱に張り巡らせる構造。暫定2車線の高速道路は、ラバーポールで上下線を分離しているが、対向車線への飛び出しによる事故が相次ぐ。この新たな防護柵は支柱が容易に壊れ、ロープのたわみで衝撃を吸収、車両の突破を防ぐ仕組みだ。
衝突した支柱の強度が低いため運転手にかかる負荷が小さい上、路肩や中央帯に安全に停車できるため後続車の玉突き事故も発生しにくく、交通を阻害せずに済むといった利点もある。工事や緊急時に支障がある場合は人力で支柱とロープを取り外せるため、交通の開放と復旧が容易にできる。
■飛び出し事故大幅減
試行設置では接触事故95件のうち、車両の突破はわずか1件で、車両が横向きに止まった事例も2件のみだった。残る92件のうち10件は停止せずそのまま走行、26件はワイヤロープに接触した状態で停止、56件は路肩に移動して停止し、それぞれ後続車が安全に通行できた。
12年秋に試験的な導入が始まり、道央道大沼公園IC―森IC間や一般国道275号音威子府村天北峠の一部、東北の磐越道などで防護柵として設置した。16年12月の衝突実験を踏まえて国交省と警察庁が協議し、これをラバーポールなどと同じレーンディバイダーとして設置すると決めた。
国交省は同12月、全国の暫定2車線を対象に試行区間を発表した。道路構造令に定められた最低幅員が確保できるため、多額の費用がかかる拡幅工事を行わずに済む合理性が導入を後押しした。
17年3月に苫小牧寒地試験道路で行われた衝突実験では、気温の影響で張力が下がった状態でも十分に効果を発揮することを確認。同4月以降、道内では道央道の落部IC―八雲IC間8㌔など5カ所、計26㌔に設置されている。
国交省高速道路課の小島昌希課長補佐は「効果をよく確認して進めていきたい」とし、現状を分析しながら全国的な普及を進めていく方針だ。