道内産業などへのVR(仮想現実)の利用活性化を目指し、北海道VR推進協議会準備事務局は27日、札幌市内の道新ホールで発足記念セミナーを開いた。北大大学院情報科学研究科の金井理教授ら有識者が、VRを活用したインフラ整備やまちづくりについて意見を交わした。北海道新幹線札幌駅計画を再現したVRシミュレーションや、3次元モデルを活用した屋内外環境調査手法なども公開。約500人の参加者が道内でのVRの可能性に関心を寄せた。
■プラットフォーム構築に、北海道は最適環境
車の自動運転やi―Constructionなど、多様な産業でVRの利用が進んでいることから、官民によるVRの共通基盤データ「バーチャルプラットフォーム」の構築を目指し、同協議会が発足。各産業でプラットフォームを共有し、VRの利活用推進を目指す。
セミナーで金井教授は、橋梁などの3次元データに表面のひび割れといった変状や欠損情報を貼り合わせてデータベース化するAs―is(アズイズ)モデルに関する研究を紹介。3次元の人間モデル「デジタルヒューマン」を組み合わせて、維持点検時の現場危険箇所なども把握できる。
「空間に没入してユーザー評価を得られるのがVRの大きなメリット」とし、環境評価への利用に言及。屋内外の施設の3次元モデル上で、年齢や歩行速度がさまざまなデジタルヒューマンを歩行させ、段差や坂道などの転倒危険箇所や、案内サインが正しく経路を導いているかを確認することができるといった研究内容を披露した。
同準備事務局は最新のVR事例を紹介。計画中の道新幹線札幌駅構内のシミュレーションでは、在来線ホームから新幹線駅ホームへの移動イメージを再現。スーツケースを持った利用客が発車案内や景色を見ながら構内を行き交うリアルな様子を表現した。
討論には北海道建設業協会の栗田悟副会長や、さくらインターネット(本社・大阪)の前田章博氏、No Maps実行委員会の服部亮太氏、日本大理工学部土木工学科の関文夫教授らが登壇した。
栗田副会長は、工事開始前の地域への説明にCIMを活用している例などを挙げ、業界でも「一度3次元データを作ればいろんなものに応用できると実感している」と説明。情報化が進んだことで、情報系の学生が業界に集まり始めているとし、VR技術に関する人材育成やVRを生かした施工者の安全研修について期待を寄せた。
VRが快適に動く環境の提供に貢献するサーバーレンタルのさくらインターネットは、本道の気候をサーバー冷却に活用し、日本トップクラスのデータセンターを石狩市内に構えている。前田氏は、AI(人工知能)やVRのプラットフォーム化が進むことで、情報処理や事業決断のスピードが速まることから、より多くの雇用が生まれると主張した。
No Maps実行委員会は、まちなかでの自動運転実験や青少年科学館のドームを生かした大人数でのVR空間の共有などに取り組んでいる。服部氏は「イベントだけでなく、社会課題を実験したい企業と協力し、そこで挙がった課題をプラットフォームでぶつけていけたら」と展望。各業界が連携してVRの裾野を拡大させる工夫が必要と唱えた。
金井教授は「モデルを作り込むには、多大なコストが掛かる」と指摘し、コンテンツ作製の費用負担スキームの明確化を課題に挙げた。新幹線駅モデルなどの大規模構造物に関しては、長期間利用できるようコンテンツの維持管理が重要と説いた。