建設新聞で読み解く あのときの札幌

シリーズ「建設新聞で読み解く あのときの札幌」

 1960、70年代の札幌では、ダイナミックな建設投資が行われ、今日の発展を支える多くの都市施設が整備されました。当時の様子を北海道建設新聞の記事とともに振り返えるこの連載は「e-kensin」限定の企画です。

第2回「曲折あった防災街区の再開発」

2018年09月23日 07時00分

 「日本一の超大ビル計画」「延べ8万8千平㍍ 43年着工で準備」―。やや大げさとも思える見出しが、1966(昭和41)年12月2日付に登場する。第1回で紹介したように1960、70年代の札幌市の中心市街地では、木造の低層店舗が立ち並ぶ街区をビル化する事業が盛んに行われた。札幌を代表する商店街「狸小路」の5丁目(南2、3条西5丁目)全域を対象に構想されたこの計画の経緯をたどると、再開発の難しさの一端が分かる。

1次プランの完成図付きで「狸小路5丁目」全域の防災化を伝える66年12月2日付

 ■5丁目を完全防災化

 狸小路5丁目の商店経営者ら有志で組織する「五丁目発展策研究会」が策定したこの計画は、SRC造、地下2地上9階、延べ4万4095m²の建物を、狸小路を挟んで南北に2棟配置するという大規模なもの。研究会のメンバーが海外への視察などを行い、1年がかりで取りまとめた。

 購買客の増大と固定化、全域の完全不燃化、商店街としての美観整備―を計画の目的に掲げ、建物には店舗(地下1、2階、地上1~5階)、住宅(6~9階に300戸)のほか、幼稚園、診療所、庭園などを配置。火災などの災害に備えるため、南、北両ビルの住宅部分には非常用通路を設けるとしている。

 研究会は、66年10月29日に第1回会合を開き、正式な活動をスタートした。記事は12月14日の第2回会合で「地元関係者の意思統一を、積極的に進めることを決定した」と伝え、研究会会長の「明年1年間を準備期間とし、明後年には着工にこぎつけたいと考えているが、南・北両ビルのうち、いずれを先に着工するかはこれからの情勢で決定することになろう」との見通しや、札幌市住宅指導課長の「五丁目はかなり建て混んでいるので、これを一本化し不燃建築にすることは当然必要だ。実現するまでに多くの問題もあると思うが、五丁目全域の完全防災化という趣旨を、あくまで貫いて欲しいものだ」とのコメントを掲載している。

 ■5割以上が賛同

 67年2月27日付に「一期を明春一月 狸小路五丁目ビル」の記事が載る。計画の方針が決まったことを伝える内容で、会社(事業主体)設立67年3月末、設計着手4月1日、設計完了12月末、1期工事発注・入札68年1月、同着工3月、同竣工12月末―といった具体的なスケジュールが示されている。

 3月22日付に続報。準備を進める組織名は「五丁目防災建築街区造成組合設立事務所」となる。記事の中で同事務所代表は、設計を八千代エンジニアリングと岡田設計に任せ、施工については「鹿島建設が第一候補」としている。加えて、地元関係者約150人のうち5割以上の賛同を得ていること、建設規模は地下2地上9階、延べ7万8000m²(非住宅部延べ5万6000m²)で総工費は約53億8000万円を見込むこと、バスターミナルを誘致する方針にも触れている。5月1日に造成組合発足、7月から実施設計着手、年内に北ビルの設計完了、8月に新会社を設立してビル完成後の運営などに備えるといった事業スケジュールの詳細も明らかにしている。

67年2月27日付には2次、3次プランの完成イメージや設計・施工業者名前、スケジュールなどの詳細が載った

 ■期成会解散、再検討

 順調と思われた5丁目の完全防災化への歩みだが、同年8月4日付に「期成会解散し再検討」との記事が載る。「地元関係者の意見調整がほとんど困難になったことと、現在の体制では今後の事業推進が不可能とみられる」ため、総会を開き、解散を決めたとある。新体制による事業計画の見通しについては「北ブロック(南二条側)の東半分、または三分の二程度の敷地に大型ビルを建設、店舗、住宅、劇場などを収容する方針とみられる」としている。

期成会の解散再検討を報じる67年8月4日付

67年11月には北、南両街区の組合設立を掲載した

 続報は9月26日付。見出しは「北側は明秋着工か」。日本開発銀行が都市開発のための融資枠を68年から地方都市に広げる方針を打ち出し、その候補に五丁目ビルが上ったという内容で、「北ブロックだけを一期、二期に分けて建設する」「建設省に防災建築街区造成組合設立認可を申請、明年秋には着工」というビル建設側の意向が示されている。

 この後、11月には、北ブロックに当たる南2条西5丁目側が狸小路西地区B街区、南ブロックに当たる南3条西5丁目側が狸小路西地区D街区として、組合の創立総会を開催したとの記事が出る。札幌市はこの総会で、それぞれの組合にSRC造、地下2地上9階、延べ3万2000m²程度の共同ビルを建設する原案を提示。12月28日に各街区は事業施行地区の指定を受けるが、続報はこの後、長い間途絶えることになる。

 ■場外馬券場を誘致

 次に狸小路5丁目地域の再開発に関する記事が出るのは、76年12月10日付。「馬券売場誘致へ 構想規模は2万平方㍍」と見出しが打たれた。地元有志による新たな動きで、対象は南2条側の北ブロック。「規模は、敷地約三千三百平方㍍を見込み、地下二地上五階、延べ約二万平方㍍のものを予定している」「地下一階は東宝プラザと機械室、地上一階の前面には既設の商店街を並べ、一階後部と二階から五階までを日本中央競馬会の場外馬券場にリース」と伝える。

場外勝馬投票券発売所をキーテナントとするビル建設構想が76年12月10日付に登場

 南北2つの街区全域を使い、大型ビル2棟を建てる当初の計画は「結局権利調整に至らないまま、日本でもまれな超ビック計画は、日の目を見なかった」とした上で、73年7月に同地区で発生した4棟8店を全焼する火災が契機となり、再び計画づくりが始まったとその背景を記す。

 ■79年に待望の完成

 事業化に向けた準備が進む。77年8月19日付の記事は、日本中央競馬会(JRA)が必要とする部分の基本設計を日本競馬施設で進め、さらに全体設計は石本建築が有力視されていること、さらに9月10日付では、ビルを建設する新会社「狸小路五丁目センター」を近く設立すると伝える。この時点の施設規模は、RC造、地下1地上3階、延べ7千数百m²を想定。規模は76年時点から半分以下になっている。この後、JRAの場外勝馬投票券発売所 (ウインズ札幌B館)がキーテナントとして入る「狸小路五丁目センタービル」は78年に着工し、翌79年に完成を迎えるが、最終的な規模はRC造、地下1地上5階、延べ6827m²となった。

 完成時期は多少前後するが、狸小路五丁目センタービルの西隣に高野観光開発によるロジェ札幌25(SRC造、地下1地上13階、延べ8007m²)、さらにその隣には日本栄養食品の社屋を含む日栄ビル(SRC造、地下1地上10階、延べ3326m²)がそれぞれ建設されている。ちなみに狸小路五丁目センタービルとほぼ同時期に完成した、ウインズ札幌A館が入る南3条西4丁目のビルは、ことし7月から改築工事に取り掛かっており、21年春のリニューアルオープンを目指している。

JRAが入る狸小路五丁目センタービルの右隣がロジェ札幌25、日本栄養食品の日栄ビルと続く

 ■再開発の難しさ知る象徴

 防災建築街区造成事業と市街地改造法による再開発事業によって、札幌市中心部の街区にあった店舗の不燃化と共同化は一挙に進んだ。ただ、土地・建物所有者、借地・借家権者といった多くの権利者が関わる再開発には、複雑な利害調整や資金調達などの課題が横たわるため、計画内容が変更となったり、二転、三転の末、計画自体が立ち消えとなるケースも少なくない。

 札幌市の場合、第1回で紹介した防災建築街区に限ると、62年から67年の6年間に5地区、34街区が防災建築街区造成法の目的に適合するとして建設大臣から事業施行地区の指定を受けたが、事業主体となる組合を結成したものの、解散した街区が3カ所、組合の結成にも至らなかった街区が11カ所あった。計画の見直しや変更を重ね、実現までに多くの年月を要した狸小路5丁目は、再開発の難しさを知る上で象徴的な事例かもしれない。

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