建設新聞で読み解く あのときの札幌

シリーズ「建設新聞で読み解く あのときの札幌」

 1960、70年代の札幌では、ダイナミックな建設投資が行われ、今日の発展を支える多くの都市施設が整備されました。当時の様子を北海道建設新聞の記事とともに振り返えるこの連載は「e-kensin」限定の企画です。

第3回「再開発ビル巡るゼネコンの受注戦」

2018年09月30日 07時00分

 道路の拡幅に合わせて行われた札幌駅前通沿いの再開発事業。今回は、南1条からススキノ間で展開された共同ビル建設を巡るゼネコン各社の熱い受注戦を紙面から拾い上げてみた。

 ■最低制限価格で乱戦回避

 第1回でも触れたが、南1条―ススキノ間の再開発で取っ掛かりとなったのが、現在、南2西3南西地区第1種市街地再開発事業の準備作業として解体が進むサンデパートビル(北海道住宅供給公社が札幌市狸小路三丁目ビルとして発注)だ。

 1962(昭和37)年3月の記事を見てみる。16日付に「大手八社に指名」の見出し。本体工事に先駆け、既存建物除去工事を指名発送したという内容で、「指名業者の顔ぶれから除去工事を施工する業者が、そのままTビル(札幌市狸小路三丁目ビル)本体新築の最も有力な施工業者とみるむきもありTビル新築の前哨戦ということになりそうだ」と伝えている。入札日は3月17日とある。

札幌市狸小路三丁目ビル(サンデパートビル)の激しい受注戦を掲載した63年3月19日付

 しかし19日付には「駆体、解体を一括24日入札」の記事が載る。17日に予定されていた除去工事を「①指名参加業者のつよい獲得意欲と②本体新築入札における乱戦をさける③契約事務の一本化、など諸般の事業で延期」し、除去工事を新築工事に統合させるというもの。記事は4社が激しく競合し、「本体の入札はまれにみる乱戦がさけられないもようである」と伝える。解説も記され、「二四日の入札では住宅公社が『最低制限制』をとり、最低入札者がかならずしも落札者ではないという強い態度を示すことになろう」としている。

 入札結果を伝える26日付。見出しには「最低制限で乱戦をさける」。入札(1回目)の1番札は木田建業の3億7200万円だったが、2番札の鹿島建設が3億7550万円で落札した。このほか入札には、岩田建設、竹中工務店、大成建設、熊谷組、藤田組、伊藤組土建が参加している。

 ■3社が大激戦を展開

 サンデパートの札幌駅前通を挟んで向かい側にある南2西4南街区防災ビル(当初の名称は札幌狸小路四丁目ビル、その後コスモビルに変更され、現在は札幌ナナイロビル)の受注を巡っては、68年6月6日付で「三社が大激戦」という見出しを立て、指名9社のうち、新菱建設、地崎組、木田建業の動きを取り上げている。

低層の店舗が軒を連ねていた再開発前の南2条西4丁目(67年6月16日付)

南2西4南街区防災ビルの受注を巡るゼネコンの動きを報じる68年6月6日付

 新菱建設は「同事業が市に移管される以前の単独当時、三菱グループの資金立替、仮設店舗、テナント問題などを中心に営業活動を続けた」、地崎組は市内の市街地改造事業が本州大手に独占されているため「地元業者の面目をかけて立候補」、木田建業は「ビル用地を売却した拓銀南支店などの強いすいせんを受けて立候補」とある。

 同ビルは、RC造、地下2地上7階塔屋3階、延べ1万1444m²という大きさだけでなく、たどった経緯からも注目されていた。

 当初は、地元商店街と拓銀の共同ビルとして64年に検討が始まり、市も趣旨に賛同して仲介に入ったが実を結ばなかった。その後、店舗所有者らは建設期成会を立ち上げ、工事資金の問題や工事期間の路上仮設店舗の課題に取り組み、市街地改造としての事業化を市に打診したが、市は当時、他の街区で市街地改造法を適用した土地の買収が内定していたため、「思わしくない」という結論を出していた。

 地権者側は引き続き用地買収などに取り組み、防災建築街区造成事業としてビルの共同化に踏み切ろうとしたとき、先に挙げた市が進めていた市街地改造による用地買収が不可能となったため、「一躍市街地改造事業とクローズアップされてきた」とある。

 事業化は防災建築街区造成事業として行われることになるが、防災建築街区造成法55条の適用が建設省に認可されたため、市街地改造法に準じ、発注業務などを含めた手続きや調整を市が担うことになった。入札は6月10日に行われ、主体は3回目で地崎組が6億820万円で落札し、地元企業としての面目を保った。

69年1月1日付に掲載された札幌駅前通の様子。通沿いでビルの建設が進んできているのが分かる

 ■「最大の大物」はJVで成契

 73年、この年「最大の大物」(SRC造、地下3地上8階塔屋3階、2万8900m²)とされた南1条西3丁目のSサッポロビル(札幌パルコがキーテナントとして入居するビル)が着工となる。施主は、地元権利者(富貴堂、サッポロレジャーセンター、林屋製茶札幌支店)と西友ストアの4者。建設資金の全てを西友ストアが立て替えたという共同ビルだ。

 第1報は同年1月31日付の「富貴堂などの共同ビル 森(東京)で基本構想」。4月13日付に主体、設備一括で6社(戸田建設、鹿島建設、清水建設、竹中工務店、地崎工業〈同年4月1日に地崎組から社名変更〉、熊谷組)に指名したとの記事が載り、同18日付では「波乱模様のSサッポロビル 金的めざし五社強気」との見出しを立て、「二十三日の見積りまではまだ時間もあり、各社とも手のうちは見せていないが、虎視たんたんと戦術をねっている」と各社の動きを営業担当者のコメントを添えて伝えている。

73年4月18日付のSサッポロビルの記事では、ゼネコンだけでなく施主側の思いも詳しく伝えた

 同25日付では「鹿島建設が最低札を 見積額は二十八億二千万前後」を見出しに各社の見積額の状況を掲載。「ほとんど差のない見積り額だけに決定までの成り行きが注目される」とある。続報は5月1日付の「鹿島建設と随交」。同18日付で「5億下げてもノー」「見積り額を大幅に切る」。記事は「見積り提出からまもなく一カ月を迎える。ところが、施主側の予算と見積り額には大幅な開きがあり、こんとんとした状況であったが、ついに鹿島建設は二十三億数千万円まで下げ、ふたたびここ一両日中に話合う予定である」と経緯を説明する。

 さらに同21日付では、当初JVを認めない方針だったが、情勢の変化で「鹿島建設のほかに、清水建設、戸田建設の二社が参加する三社共同体の線が濃厚になってきた」としている。結果、23億7000万円で3社JVが成契し、6月19日に地鎮祭を行い、着工している。

 ■本州勢が圧倒する

        ※クリックで拡大

 1960、70年代に建設された駅前通沿い(南1条―ススキノ間)の主な再開発ビルの受注業者をあらためて整理してみる。

 前記したSサッポロビル(南1条西3丁目)のほか、西3丁目側から見ると、南2条西3丁目は札信・丸美ビル(札幌信金ビル)を鹿島建設、札幌南拓銀(北海道土地ビル)を木田建業が受注。南3条西3丁目の川中・川人ビルと三信ビルは三井建設。西4丁目側は、南1条西4丁目の4丁目プラザビルが鹿島建設・竹中工務店JV、南2条西4丁目は札幌駅前通第3市街地改造ビル(中心街ビル、現在のピヴォビル)が鹿島建設、札幌狸小路四丁目ビル(コスモビル、現在の札幌ナナイロビル)が地崎組、南3条西4丁目はエイトビル(現在のアルシュビル)が竹中工務店、シルバービルが藤田組、石川物産館が施主となった南4条西4丁目の恵愛ビルが東海興業といった具合だ。

 本州勢が圧倒する受注戦線だったが、特に鹿島建設はSサッポロビル、4丁目プラザビルに加え、同じ南1条の「4丁目十字街」に面する三越札幌店(2期工事)、日之出ビルを受注し、4丁目十字街の4つの角の再開発を手中に収めている。

「4丁目十字街」から見た駅前通。4つの角の再開発を鹿島建設が受注した

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