地域のために働く大学 船水尚行室蘭工大副学長に聞く

2018年08月28日 07時00分

 2019年4月に工学部を理工学部に移行する室蘭工大。新たな教育課程をスタートさせ、地域の産業発展に貢献する科学技術者の育成を目指す。企業や自治体との連携を深め、〝地域のために働く〟大学としての位置付けを強化。研究・連携担当の理事を務める船水尚行副学長に、室蘭工大が目指している姿を聞いた。

 ―大学と地域・企業・行政との関わり方に変化は。

 室蘭工大は〝地域のために働く〟と宣言している。以前から地域への貢献は大事な役割の一つだった。それを明確にし、行動している。

 従来のように、若い人を育てて会社に入れるだけでなく、社会人のリカレント教育(再教育)の役割を果たすことも求められている。地域の企業に対して技術開発などで関わってきたが、今後は人材育成など幅が広がっていくだろう。

 行政に対しても職員のスキルアップなど、人材育成の仕組みを用意できればと思っている。小規模の自治体は技術系職員が少なく、行政サービスに苦労している。そういうサポート方法はあるはずだが、現状ではそこまでの仕組みづくりは難しいと思う。

 ―社会人向け教育はどのような方法か。

 スキルアップを望む社会人の多くは専門職なので、学部というよりは大学院のレベルになると思う。本学では夜間主コースがあり、室蘭周辺に住む人なら終業後に勉強することができる。

 将来的には、企業や業界団体から講義項目のオーダーを受け、受講者にライセンスを付与し、それを業界内で生かせるような仕組みがつくれればと思っている。

 ―まちづくりやインフラ整備への関わりは。

 16年の台風で十勝や日高は大変な影響を受け、農業被害も大きかった。従来型のインフラ整備では、洪水から街を守ることが重要視されてきた。しかし、1次産業という極めて大事な産業を守るため、インフラ整備を違う文脈から考えなければならなくなっている。

 洪水に対する安全対策は、都市部と農村・漁村部では異なり、通信インフラなど防災体制も同様だ。北海道開発局は〝生産圏〟と表現するが、そうした圏域でのインフラの在り方というのは極めて新しい命題で、食糧生産基地の構築や観光資源を生かすためにも重要なポイントだと思う。

 命題に際し、さまざまな企業や行政の人が一緒になる場を大学がファシリテートするという形が今後も進めばと考えている。

 ―来春、工学部が理工学部になる。どのような人材の育成を目指しているのか。

 理工学部では幅広く身に付けた科学と工学の専門知識を基盤に地域の資源や資産の本質を解明し、産業を生み出す力を養ってもらう。さらに地域の資源・資産の特性を理解し、産業を発展させる力を持つ科学技術者を養成しようと考えている。

 ―地場企業を中心に「優秀な人材が確保できない」との声も聞こえるが。

 17年度は約3000件の求人票を受け、求人倍率は5・5倍だった。マッチングがかなわなかった求人先には申し訳ない思いだ。

 一方、企業に求めたいのは〝優秀な人材〟の確保だけでなく、〝良好な人材〟にも目を向けてほしいということ。「企業の社員教育制度がどれだけ充実しているか」という点は、志望先選定の大きな要素になる。

 ―室蘭工大が目指している姿は。

 「北海道のためにしっかり働いていく大学」というポリシーは今後も変わらない。その一方、工学という世界は地域だけを見ていても駄目なので、グローバルな視点で〝とんがったもの〟をいくつか用意することも大事だと考える。

 第四次産業革命と叫ばれるように、情報系の議論は基盤の技術に向かっている。IoTやAIといった情報系基盤の上に、生産圏のインフラ整備や1次産業の6次化などがラップし、互いにつながった格好で実際の物に出来上がろうとしている。そこに柱を何本も立てていこうというのが本校の目指す姿だ。

 室蘭工大は航空宇宙に強みがあり、白老にロケットスレッド設備を持っている。北海道の将来を考えたとき、航空宇宙を一つの産業にできないかと考えている。柱の一つにしたい。情報系基盤をベースに、従来の専門工学を進化させたい。

 船水尚行(ふなみず・なおゆき)1978年、北大大学院工学研究科衛生工学専攻修士課程修了。北大の環境ナノ・バイオ工学研究センター長や次世代都市代謝教育研究センター長などを経て、2018年4月から現職。


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