建設新聞で読み解く あのときの札幌

シリーズ「建設新聞で読み解く あのときの札幌」

 1960、70年代の札幌では、ダイナミックな建設投資が行われ、今日の発展を支える多くの都市施設が整備されました。当時の様子を北海道建設新聞の記事とともに振り返えるこの連載は「e-kensin」限定の企画です。

第4回「札幌駅前通北街区のビル建設〈西3丁目側〉」

2018年10月07日 07時00分

 1970(昭和45)年1月1日付の特集に掲載された札幌駅前通を中心とした都心部の様子を見ると、ビルの高層化が進んできているのが分かる。第1~3回では、札幌駅前通沿いのうち、南1条―南4条間を中心に本紙を振り返ってきたが、今回は南1条―南4条間よりも一足早くビル化が進んだ大通以北の札幌駅前通北街区に目を向けてみる。

都心部の上空から札幌駅前通を望む(70年1月1日付)

 ■「駅前通」として活況

 碁盤目状に街区が配置された札幌の中心部は、大通をはさみ、南が商業を中心とする民地、北が官地として発展してきた。官地のうち、北1~6条通と西4~8丁目通に囲まれた区域は、明治政府が1869(明治2)年に設置した開拓使の本庁敷地。その東端に当たる西4丁目通(後の札幌駅前通)は幅員36mのメインストリートとなった。

 同通沿いの街区は、1880年の札幌停車場(札幌駅)開業や官有地の民間払い下げもあり、次第に旅館や店舗などが張り付き、その後、銀行や生命保険など本州企業の出先が相次いで進出し、活況を呈していく。

 ■駅前の顔「五番館」

 このシリーズで対象とする1960、70年代に完成したビルを中心に西3丁目側の北から南方向へと順に見ていく。

 北4条西3丁目で、まず第1に挙げられるのが、駅前の象徴的な存在だった百貨店の五番館。本紙にその発祥や変遷を伝える記事がなかったため、さっぽろ文庫(札幌市教育委員会編)の第23巻「札幌の建物」から引用すると、五番館の前身となる「五番館興農園」が北4条西3丁目に開業したのが1906(明治39)年。種苗や農具を扱う赤れんが造りの店舗で、「広びろとしたアーチの列を連ねた建物」とある。

 本紙に登場するのは、71年に着工、72年に完成した新館の建設。赤れんがの特徴を継承して58年に完成した旧館(SRC造、地下1地上8階、延べ5884m²、鹿島建設が施工)の東隣に増築されたSRC造、地下3地上8階、延べ1万7998m²の建物で、設計は旧館を手掛けた久米建築、施工は伊藤組土建が担った。

五番館の新館竣工を伝える72年10月11日付。写真の右側は66年に完成した北海道建設会館

 72年10月11日付の見出しは「明るさ映す壁面 五番館新館が完成」。記事には「特徴は外壁にハーフ・ミラーを使ったこと。向いの建物や空を壁面に映し、明るいムードをただよわせている。これまで赤レンガとして永く道民から親しまれてきた旧館とよく調和している」とある。

 ハーフ・ミラーの採用は「旧館と新館とを近代的なファサードによって融合させつつ、ひとつの新しい建物としてのイメージを追求することにあった。一般的に雪国の風土は暗く閉鎖的になりがちであるが、札幌という近代都市にふさわしく、明るいイメージを与えるよう意図した」「ハーフミラーの壁面は主道路に面しており、その演出を追求することにある」など、設計担当者のコメントを詳しく紹介している。

 五番館はこの後、西武百貨店との業務提携や同百貨店への吸収合併をたどることになる。建物は改修や増築を重ね、90年12月には中通りを挟んだ北東部にロフト館(延べ2万2700m²)を新設した。しかし売り上げの低迷が続き、2009年9月30日に閉店。西武百貨店はこの時点でセブン&アイ・ホールディングスの傘下に入っていた。

 百貨店の土地・建物は11年1月、家電量販大手のヨドバシカメラに売却され、建物は同年解体。駅前の一等地であるため、その活用法が注目されているものの、更地の状態が続いている。

札幌駅前の一等地でありながら、7年もの間、更地の状態が続いている五番館跡

■大同生命ビルは建替中

 続いて北3条西3丁目。北西角に立つ札幌富士ビル(現在のヒューリック札幌ビル)は1965年2月に着工し、66年8月に完成している。施主は富士銀行と仙台不動産。SRC造、地下2地上9階塔屋2階、延べ1万4253m²の規模で、大成建設が設計施工を手掛けた。

 「クリーム系の色調とシャープな直線との組み合わせで、新鮮な魅力を表現している」。2㌻建ての66年8月30日付特集では、外観の特徴をこう伝える。富士銀行のほか、丸紅飯田(現在の丸紅)、沖電気工業、日清製粉などがテナントとして入居した。

札幌富士ビルの完成特集(66年8月30日付)

 雪印パーラーが入っていた札幌雪印スノービル(スノー会館ビル、RC造、地下1地上7階、延べ1762m²)は伊藤組土建の施工で61年に完成。その南側の大同生命ビルは、新ビル(SRC造、地下2地上12階、延べ1万3536m²)の地鎮祭の様子を伝える記事が73年11月24日付に掲載されている。設計は建築家の黒川紀章氏、施工は地崎工業。

 オイルショック(第1次石油危機)を受けて政府が組織した建築抑制協議会が、同ビルの建設にストップをかけていたため、「完成は当初予定の五十年三月がかなりずれるもよう」とある。

大同生命ビルの地鎮祭を報じた73年11月24日付。写真は完成イメージ

 この2つのビルは既に解体され、現地では敷地を一体的に活用した「大同生命札幌ビル再開発プロジェクト」が進む。新ビルは、S一部SRC造、地下1地上14階、延べ2万3879m²の規模で、地下1階から地上2階までが商業スペース、地上3階以降はオフィステナントとなる。設計は日建設計・北海道日建設計JV、施工は大林組が担っている。完成は2020年春の予定だ。

敷島ビルの建設を伝える69年10月31日付(上)と73年11月24日付の記事

 ■富国と越山は共同ビルに

 北2条西3丁目は、富国生命と越山ビルディングズによる「札幌フコク生命越山ビル」(地下部はS一部SRC造、地上部はS造、地下1地上13階、延べ1万8844m²、設計は清水建設、施工は清水建設・伊藤組土建JV)の2017年3月開業が記憶に新しいが、建て替えられる前は、富国生命ビル(1965年完成)が街区の北西角に位置し、その南隣に越山ビル(RC造、地下1地上7階、延べ3984m²、57年完成)があった。どちらも清水建設が施工を担っている。

 同街区の敷島ビルは、施工を清水建設に特命し、SRC造、地下2地上9階、延べ1万890m²の規模で建設すると69年10月31日付にある。2期工事に当たる同ビル増築の記事は72年1月29日付。構造と階数は1期工事と同じで、延べ面積は5400m²。設計の三菱地所、施工の清水建設も同様だ。同年12月に完成している。

 南西角にある朝日生命札幌ビルの現在の建物は、同社の札幌支社を解体し、竹中工務店の設計施工で76年に着工し、77年7月に完成。規模はSRC造、地下1地上9階塔屋2階、延べ4149m²。

 ■敷島屋が2つのビル取得

 北1条西3丁目では、住友信託ビル(SRC造、地下2地上9階、延べ8255m²)が65年、その西隣で駅前通に面する札幌三和ビル(SRC造、地下2地上9階、延べ9150m²)が73年にそれぞれ完成。両ビルは現在、敷島ビルを所有する敷島屋が取得し、「敷島プラザビル」「敷島北一条ビル」としてオフィスの賃貸を展開している。

 同じ北1条西3丁目でも北1条通を挟むため街区は異なるが、駅前通と北1条通が交わる北西角に58年、大和銀行札幌支店が入るRC造、地下1地上6階、延べ2491m²のビルが完成。同ビルは86年に建て替えられ、SRC造、地下2地上10階、延べ1万3104m²の新ビル(現在の名称は井門札幌ビル)に生まれ変わっている。旧ビル、新ビルとも大成建設が設計施工を担った。

 ■“ランドマーク”の交代

 最後に大通3丁目だが、大和銀行ビルの南隣には当時、北海道拓殖銀行の本店ビル(RC一部S造、地下2地上7階、延べ2万3012m²)があった。59年着工、61年に完成した建物で、三菱地所が設計、清水建設が施工を手掛けた。

2006年に撮影した北洋大通ビル(旧拓銀本店)。同年11月から解体作業が始まった

 石造りの重厚な外観を持つこの建物は、拓銀の経営破綻後、2001年に整理回収機構が行った建物事業提案型の公開競争入札を経て、営業を引き継いだ北洋銀行が取得。北洋大通ビルとして利用され、同行の大通支店が入っていた。

 その後解体され、跡地には2010年、北洋銀行の本店・店舗のほか、テナントの商業施設やオフィスが入居する複合ビル「北洋大通センター(S一部RC造、地下4地上19階、延べ5万8742m²)」が完成し、駅前通の新たなランドマークとなっている。

 このビルの設計・監理は日建設計・北海道日建設計・ドーコンJV、施工は大林組・伊藤組土建・岩田地崎建設・丸彦渡辺建設・中山組・田中組JVが担当した。

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