建設新聞で読み解く あのときの札幌

シリーズ「建設新聞で読み解く あのときの札幌」

 1960、70年代の札幌では、ダイナミックな建設投資が行われ、今日の発展を支える多くの都市施設が整備されました。当時の様子を北海道建設新聞の記事とともに振り返えるこの連載は「e-kensin」限定の企画です。

第5回「札幌駅前通北街区のビル建設〈西4丁目①〉」

2018年10月14日 09時00分

 同じ札幌駅前通の北街区でも西3丁目と西4丁目ではビル立地の経緯が異なる。小区画の民地が並んだ3丁目は小売店舗を中心に街区を形成し、その区画を共同化しながらビル化が進められた。一方、西4丁目の多くは開拓使時代からの大区画が残り、行政機関の庁舎や官舎の跡地をそのまま活用した大規模ビルの建設が相次いだ。

 ■存在感放つ伊藤ビル

 北4条西4丁目の伊藤ビルは1962年8月着工、63年12月に完成した、駅前通を代表するビルだ。

 築後50年が経過した伊藤組の社屋を現地で建て替えたビルで、設計が固まったことを報じる1962年6月12日付の見出しは「華麗なルネツサンス様式で」とある。規模はSRC造、地下2地上9階塔屋3階、延べ1万1476m²。外部は1、2階に花こう岩を張り、3~9階は耐寒タイル仕立て。風格ある姿は今でも存在感を放ち続けている。

伊藤ビルの建設プラン決定を伝える62年6月12日付

 伊藤ビルの北隣にある伊藤加藤ビル(SRC造、地下3地上9階、延べ1万2136m²)は、伊藤組と加藤物産館の共同ビルで69年に着工し、71年7月に完成。6~9階にはかつて「札幌国際ホテル」が入っていた。

 中通りをはさんで南側の街区では、洋菓子店を営むニシムラと伊藤組、伊藤組土建の3社が共同出資した西村国際ビル(現在の札幌国際ビル、SRC造、地下3地上8階、延べ1万1579m²)が74年に完成している。

 南東角の旧札幌日興ビルは58年に完成。その後、新ビル(SRC造、地下2地上8階、延べ5303m²)への改築が戸田建設・鹿島建設JVによって83年3月から84年11月の工期で行われている。旧ビルの施工は戸田建設、設計は新旧とも三菱地所が担当した。

北4条西4丁目に並ぶ、(右から)伊藤加藤ビル、伊藤ビル、札幌国際ビル、札幌日興ビル

 ■「全道一のスケール」

 北3条西4丁目では、北東角の札幌第一生命ビル(SRC造、地下1地上9階)が57年に完成。竹中工務店が設計施工を担っている。

 その南側は62年完成の日本生命札幌ビル。南3条西3丁目で30年に開業した同社札幌支社の社屋移転も兼ねた本格的なオフィスビルで、規模はSRC造、地下2地上9階、延べ2万4948m²。62年9月15日付の完成特集表紙の見出しは「全道一のスケール誇る」とある。

 建設地は58年まで鉄道集会所があった場所で、南側に道庁正門通(南3条通)が走る。上空からビルを撮影した写真を見ると、当時の北3条西4丁目の様子がよく分かる。同ビル(中央)の北側(右)が札幌第一生命ビル、西側(上)には58年完成の札幌第1合同庁舎(RC造、地下1地上6階、延べ1万6830m²、施工は竹中工務店)がある。

日本生命札幌ビルを上空から撮影した62年9月15日付特集の表紙

 日本生命札幌ビルと札幌第一生命ビルの間に低層の建物があるが、これは拓銀札幌駅前支店。後に解体され、跡地では日本生命札幌ビルの2期工事として延べ約1万m²の増築が行われている。それぞれ設計を久米建築、施工を大林組が手掛けた。

62年9月15日付特集に掲載された、日本生命札幌ビルの「完成までの足跡」

 特集3㌻目の「完成までの足跡」は、50数年前のビル建設の様子を知る上で貴重な資料となるだろう。仮設事務所の設置から完成に至る工程を時系列に10区分し、それぞれ写真も添えて紹介している。工事を指揮した大林組の施工担当者によるものだ。

 ■道内最後の一等地

 2000年代に入り、同街区は再び大きな変貌を遂げることになる。

 老朽化した札幌第1合同庁舎は、北区北8条西2丁目の現在地でS一部SRC造、地下2地上18階塔屋1階、延べ5万3030m²の規模で建て替えられ、入居していた国の出先組織は89年7月に移転。その後、札幌第3合同庁舎庁舎の仮庁舎として94年まで使用されたが、同庁舎移転後は更地となっていた。

 敷地の面積は5930m²。「バブル期には実勢価格が300億円ともいわれていた、未利用国有地としては道内最後の一等地」(2000年12月21日付)だ。売却に向け北海道財務局は、1999年2月に一般競争入札を行ったが、応札者がなく不調。そして2000年12月20日に2回目の入札を実施した。同月11日の入札説明会には16社が参加したが、当日姿を見せたのは日本生命の担当者2人だけ。結局、1回目の札入れで同社が45億円で落札した。

日本生命による札幌第1合同庁舎跡地落札を伝える2000年12月12日付

 入札後の会見で北海道財務局長は「道庁の前のオフィス街として、拠点となるべきふさわしいものを期待したい」(2000年12月21日付)と語っている。

 ■北関東以北で最大

 日本生命は、この土地と同社ビルの敷地を合わせた9730m²を対象とした再開発事業を「ニッセイ札幌プロジェクト」と銘打ち、2004年5月に着工した。

 札幌第1合同庁舎跡地には高層のオフィス棟(SRC一部S造、地下2地上23階塔屋1階、延べ9万2000m²)、日本生命札幌ビル跡には商業棟(SRC一部S造、地下2地上5階塔屋1階、延べ1万5000m²)を配置。06年10月に1期工事のオフィス棟を終え、日本生命札幌ビルに入居するテナントのオフィス棟への移転を経て、07年1月から2期工事の商業棟に着手、09年11月に開業している。2棟合わせると延べ10万7000m²となる同ビルは当時、北関東以北で最大のテナントビルといわれた。

解体用の足場がかかっている、2期工事に入る直前の旧日本生命札幌ビル。2006年10月に完成したオフィス棟が背後に見える(06年12月に撮影)

 商業棟は、道庁の赤れんが庁舎につながる北3条通に面した部分を大きくセットバックさせ、オープンスペースを確保。ビルのアトリウムと連続させた。10年12月には「都市に貢献する建築」と評価され、2010年度の「北海道赤レンガ建築賞」を受賞。11年3月に供用を始めた札幌駅前通地下歩行空間と接続する先駆にもなった。 

 1期、2期とも設計・監理を久米設計、施工を大林組・竹中工務店・鹿島・清水建設・岩田地崎建設・伊藤組土建・丸彦渡辺建設JVが担った。

「建設新聞で読み解く あのときの札幌」へ皆様のご意見、ご要望をお待ちしております。

北海道建設新聞社デジタル事業部
TEL:011-611-6311
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■e-kensinプラス「建築ストック」に1960、70年代完成の300件を登録

 有料会員サイト「e-kensinプラス」のコンテンツ「建築ストック」に、1960、70年代に北海道で建てられた約300件のデータを登録しました。

 「北海道本庁庁舎新築」や「真駒内屋内スケート場新設」、「札幌市役所新庁舎新築」などの官公庁発注物件はもちろん、「北海道ビルヂング新築」、「札幌駅前通南2西4南街区防災ビル」、「三越札幌支店新築」といった民間建築物も充実しています。

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