北海道150年を支えた偉人

月尾嘉男 北海道150年を支えた偉人⑥ 中山 久蔵

2018年10月22日 16時00分

 北方の大地をコメの一大産地に

 北海道は広大な大地と周囲の豊穣(ほうじょう)な海洋の恩恵で日本最大の食糧生産地域であり、小麦は日本の66%、大豆は35%、ソバが42%、ジャガイモは78%を生産している。畜産も金額で20%、水産も22%を生産している。これまで唯一の弱点であったのが日本の食料の原点のコメであった。

 ところが近年、北海道はコメでも一大産地に変貌している。ここ数年、数量では僅差の2位であるが、2011年には常勝の新潟を追い抜き堂々の1位となり話題になった。しかも品質も優秀で、日本穀物検定協会が毎年実施している食味試験で、「ななつぼし」「ゆめぴりか」は最高の特Aを獲得している。

 しかし、全国各地から人々が移住してきた明治初期に、北海道で稲作は制約されていた。開拓長官黒田清隆の懇請により来日したH・ケプロンに同行した技師T・アンチセルは石狩地方を調査し、灌漑に利用する川水が冷涼すぎ、稲作は無理であり、気候に適合した麦作と畜産を推奨したのである。

本道で稲作の普及に成功した中山久蔵氏。地域の発展に貢献したとして敬意を表して建立された記念碑(いずれも北広島市教育委員会提供)

 この方針に敢然と挑戦したのが中山久蔵である。1828年に河内国春日村(大阪府太子町)に誕生し、18歳のときから全国を旅行し、明治になった1869年に北海道に永住の決意をして一旦は苫小牧に居住する。しかし農業の適地ではないと判断し、1871年に夫婦と幼児の3人で島松に移住する。

 翌年は雑穀を80俵余り収穫するが、次年には本命の稲作に挑戦するため、隣接する月寒に水田一反を開墾し、見事に反収二石三斗を実現した。前述のアンチセルの見解への対策として、種もみは道産を入手、苗代の周囲に北風対策として土塁を構築、時には風呂の温水を注入するなどの努力の成果である。

 バッタの蝗害(こうがい)や寒冷な気候の影響で収穫が減少することもあったが、平均して反収二石以上を確保し、開拓使大判官松本十郎から称賛され、さらに1877年に東京上野で開催された第一回内国勧業博覧会に道産のコメを出品したところ、初代内務卿大久保利通から褒章を授与されることにもなった。

 このような久蔵の活躍により、北海道庁も方針を変更、1892年に東京農業大学教授の稲作の権威酒匂常明を北海道庁財務部長に招聘(しょうへい)して稲作を推進し、久蔵は道庁嘱託に任命され、道内各地で営農指導にまい進した。その結果、同年に2400haであった水田は10年後に6倍以上に拡大した。

 このような活躍は当然として、それ以上に久蔵が称賛されるのは、自身の稲作にまい進するだけではなく、周辺の農家の稲作も熱心に応援してきたことである。一例として最初の貴重な収穫も「有志の諸氏に分配」したが、以後の天候不順で収穫が低下したときでさえ配布を継続してきた。

 久蔵の社会貢献は農業だけではない。1873年に函館から札幌まで日本最初の西洋式馬車道の函館本道(現在の国道36号線)が開通し、通過地点の島松にも旅人に宿泊と輸送の便宜を提供する駅逓所が設置された。1884年以来、駅逓取扱人として、この施設を管理してきたのも久蔵であった。

 この島松駅逓所は札幌農学校初代教頭W・クラークが、1877年に見送りにきた生徒たちに「ボーイズ・ビー・アンビシャス」の言葉を残して帰国した場所であり、現在、復元された木造の建物とともに「クラーク博士記念碑」「寒地稲作発祥の碑」が建立され、北海道の歴史を象徴する場所になっている。 (おわり)


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