「アイヌ文化の新たな可能性は」
ランドスケープアーキテクト 高野 文彰氏
阿寒アイヌ工芸協組専務理事阿寒観光協会理事 秋辺 日出男氏
作家、大正大表現学部客員教授 井沢 元彦氏
CGアーティスト 河口 洋一郎氏
阿寒湖温泉にはアイヌや縄文の文化をモチーフとした「イオマプの庭」という庭園がある。道内でホテル事業を手掛ける鶴雅ホールディングス(本社・釧路市)からの依頼を受け、全体構成・デザインはランドスケープアーキテクトの高野文彰氏が担当。動物や模様を彫ったアイヌの木柱には阿寒アイヌ工芸協組専務理事の秋辺日出男氏が関わった。
進行役を務めた高野氏は、「アイヌ文化の根底には縄文文化があり、2つはつながっている」との考えから、縄文文化の造形表現で使われる「渦」を取り入れた庭園造りをした。庭の中央にはアンモナイトの化石を渦巻き状に並べて「光の渦」を造作。光の渦の後ろには花を集めて円すい状にした「花の渦」を作った。
アイヌ文化では木を彫って動物や人形など具体的なものを作ると、悪いものが乗り移ると信じられているが、秋辺氏は「残すところは残して、時にはタブーを破りつつ文化を伝えていく」という持論を展開。それぞれに動物や模様を彫り、風と火、月、海、祈り、太陽などを表現した柱を制作した。
CGアーティストの河口洋一郎氏は自身が手掛けた映像アートを紹介。「自然界はアイデアの宝庫」とした上で、生物の遺伝、進化を化学的な視点から見てアートに生かすと面白くなると提案した。作家で大正大客員教授の井沢元彦氏は縄文時代から弥生時代の日本の歴史を説明し「日本は多民族な国家」と主張。それぞれの民族の文化を見直すよう提言し、イオマプの庭の制作は文化を見直すことにつながるとの見解を示した。
高野氏は北海道でしかできないランドスケープの制作を目指し、阿寒の自然とアイヌ文化が融合した庭園を造っていった。秋辺氏はアイヌの信仰を守る信念を強調しつつも、新しく取り入れられるものは取り入れる意欲を示した。イオマプの庭は今や、かつて存続の危機にあったアイヌ文化を伝える手段となっている。