雪冷熱使い長期貯蔵も 課題はトンネル購入や維持費
電源の供給が一切ない環境で農作物の貯蔵は可能なのか。北見工大の舘山一孝准教授は2014年度から、北見産の男爵とスノーマーチ、とうやのジャガイモ3種とタマネギ、カボチャ、大豆などの豆種を貯蔵する実験を行ってきた。
貯蔵は野菜収穫後の12月から翌年5月までの期間で実施。方法は貨物コンテナと旧サロマトンネルまでの連絡道路に積もった雪を冷熱資源として使う雪室の2通りを試みた。雪室を使うことによって温度は0度、湿度は100%で一定に保つことができる。長期保存による鮮度・栄養・食味の向上効果に期待した。
実験の結果、コンテナはカボチャが変色し、ジャガイモが劣化。雪室はジャガイモが変色し、カボチャは鮮度を保った。タマネギと豆類は雪室とコンテナともに劣化することなく、鮮度を保つことができた。
越冬後の雪室は、運搬時に90m³あった雪山が5カ月で8・5m³まで融解。地熱による融解であり、大量の雪を入れれば春まで雪量を保つことができ、野菜の保管期間も伸びる。「雪量次第で雪室を1年間残すことも可能になるのでは」と話す。
野菜によっては1―2年間の貯蔵が可能。豆類に至っては2年間以上保つことが分かった。「万能ではないが、湿度を上げることによって多くの野菜に適する」と語気を強める。
■他施設に知見の応用は可能
貯蔵施設として十分に活用できるという立証はできた。ただし、収益を伴う再利用となると、トンネルを北海道開発局から購入する必要があり、旧サロマトンネルへとつながる道路の維持費も高額。「道路の維持をしてまで廃トンネルを利用することは難しい」と振り返る。積極的な営農利用を希望する事業者も現れなかったため、貯蔵庫への転用は研究段階で止まったままだ。
しかし、旧サロマトンネルで得た知見を他の廃トンネルに応用することは可能だ。電力を復旧する必要がなく、除雪した雪をトンネル内に運び込むだけでメンテナンスが不要。トンネル前後の入り口がふさがっていれば貯蔵ができる。
今後、別の廃トンネルで研究ができれば太陽光を必要としないホワイトアスパラやキノコ、価格の高騰が続いてる葉物野菜の栽培に取り組みたい考えだ。
16年にオホーツク管内を襲った台風でタマネギなどの農作物に深刻な被害が及んだ。農作物は収穫できず廃棄せざるを得なかった。貯蔵ができれば有事の際に供給できない分を1年前の野菜で供給することができる。舘山准教授は、「トンネル自体の寿命が長く、一度造ったらとても頑丈。野菜のバックアップ施設ともなる」と旧インフラ施設の活用に期待を込める。
道内でも使われていないトンネルが各地に点在する。18年度以降には、開発局所管で4トンネルが廃道となる予定だ。埋もれさせたままではなく、もう一度スポットを当て、「地域の資源」として活用を考えていく段階を迎えている。