建設新聞で読み解く あのときの札幌

シリーズ「建設新聞で読み解く あのときの札幌」

 1960、70年代の札幌では、ダイナミックな建設投資が行われ、今日の発展を支える多くの都市施設が整備されました。当時の様子を北海道建設新聞の記事とともに振り返えるこの連載は「e-kensin」限定の企画です。

第8回「1972年冬季五輪〈招致と競技施設〉」

2018年12月16日 07時00分

 1966年4月27日、ローマ(現地時間26日)で開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の総会で、第11回冬季五輪の札幌招致が決定した。これを契機に72年2月の大会開催に向けた競技施設の建設準備が始まった。今回は五輪招致の経緯、競技施設の建設地や内容の検討過程などを追ってみる。

 ■悲願の五輪招致

 1966年の出来事を振り返る年末企画「10大ニュース」(同年12月14日付掲載)は、招致決定当日の市内の様子を次のように伝えている。「この日の街頭は、市電、市バスはさつそく五輪の小旗を掲げて走るなどオリンピツクムード絶頂といつたところ。また市庁舎の招致事務局にどつとお祝いの客が続き、ごつた返しの有様」。アジア圏初の冬季五輪決定に街中がわいた。

五輪招致決定を祝い、66年5月4日に札幌市内で行われたパレード(同年12月14日付)

 五輪招致は札幌の悲願。招致までの経緯をたどると、1940年の第5回大会開催が決まったものの、日中戦争によって政府が開催権を返上した歴史がある。戦後は第10回大会(68年)の招致を目指したが、フランスのグルノーブルに決定。札幌開催は見送られている。

 仕切り直しとなった第11回大会招致には、札幌のほか、カナダのバンフ、フィンランドのラハチ、米国のソルトレークが名乗りを上げていた。札幌の招致委員会が設立されたのが、65年5月7日。招致活動は1年足らずだ。上記した記事は「招致運動が本格的に動き出したのはバンフよりもはるかに遅れていた」ため、「悲観的な観測が支配的」だったと伝える。しかしIOC総会では、1次投票の段階で過半数を獲得して決定。「逆転満塁ホームランの喜び」と記す。

 ■施設費は54億円

 招致が決定した翌日の66年4月28日付。「施設に54億投入」「ついに決まつた札幌冬季五輪」の見出しで、札幌開催決定を報じる。投資額を主見出しに持ってくるところが、本紙らしい。記事には「この決定により札幌市はこれから六年間に大会開催のための諸施設を建設するが、大会に要する事業費は六十億円でこのうち施設費は五十四億円を見込んでいる」とある。

五輪招致決定を伝える66年4月28日付
※クリックで拡大

 主な施設として挙げているのが、真駒内の屋内・屋外スケート場、大倉山シャンツェ、手稲山のアルペン会場、選手村など。これら施設計画は、市の五輪招致委員会事務局が“青写真”として作成したもので、大倉山シャンツェについては「現在のシヤンツエを大改修し、九〇㍍級のものと七〇㍍級の二台を整備する」としている。

道路整備など関連事業を含めた施設を報じた
66年6月10日付※クリックで拡大

 事業内容については、同年6月10日付で「冬季五輪施設の全貌」と見出しを立て、道路、下水道など関連施設を含め、総事業費は2123億円に上ることを伝えた。直接施設は競技施設35億円、選手村15億円の合計50億円。4月28日付で掲載した額とそれほどの開きはない。関連施設は道路1252億円、鉄道高架300億円、鉄道電化280億円、下水道105億円、観光施設84億円、空港整備52億円と試算している。

 ■五輪組織が始動

 札幌市は同年5月21日付で、総務局内に「オリンピック準備室」を新設し、本格的な準備を始動。7月26日には、五輪開催の準備や運営を行う、日本オリンピック委員会(JOC)が中心となる「札幌オリンピック冬季大会組織委員会」(以下、組織委)が発足している。

 同月28日、組織委の植村甲午郎会長、佐藤朝生事務総長が来札して会見。「施設費は直接および関連を含めて二千億円台になると試算している」「建設計画としてはことし中にマスタープランを設定し、明年度から一部建設に着工したい」(いずれも66年8月1日付)との見通しを語っている。この後、札幌の組織委事務局が8月8日に市役所に設けられるなど体制が整ってくる。

五輪組織委の植村会長らが来札し、施設建設などの方針を語った(66年8月1日付)※クリックで拡大

 組織委は9月10日、スケート小委員会を札幌で開き、競技施設の内容と設置場所の検討を始めた。この時、開会式の会場となるスピードスケート場については当初予定の3万人収容規模から5万人に変更。屋内スケート場を含めた競技場設置の場所は、真駒内の西地区7万m²に建設する方針を打ち出す。

 10月17日のスケート小委員会では、選手の強化を目的に、競技施設に先だって着工するスピードスケート補助競技場を苫小牧市に建設することを決めている。同月18日付には「苫小牧市、千歳市、小樽市などの候補をあげ検討してきたが、財源、施設内容から苫小牧が条件にマツチしているとみて決定した」とある。

 この時、屋内アイスホッケー場の設置場所についても検討。結論は出なかったが、希望地として、道からは中島スポーツセンター、市側からは美香保公園と月寒公園が出されている。

 ■初弾は岩倉組が受注

苫小牧のスピードスケート補助競技場の入札結果を伝えた(67年6月20日付と同年9月5日付)

 このように競技施設の内容と工程は、「スキー」「スケート」「ボブスレー・リュージュ」の競技ごとに設けられた小委員会などで話し合われ、固まっていった。67年4月5日付で、組織委が競技施設の施工主体を決め、68年度から本格的着工するとの記事が載る。見出しは「建設費は百億を試算」。

 競技場の施工分担は、国が大倉山ジャンプ、真駒内スピードスケート、真駒内屋内スケートなど、組織委が恵庭岳滑降、真駒内距離など、地元が月寒屋内スケート、美香保同、手稲山回転・大回転などとしている。

 前記した苫小牧のスピードスケート補助競技場は、67年6月に土木工事の入札が行われ、岩倉組土建が6925万円で受注した。9月のセンターハウス新築(S造、2階、延べ約1200m²)の入札でも同社が2578万円で契約。この施設が五輪関連施設では初弾となり、12月12日に完成している。

 ■ジャンプ場は「分離」

 競技施設の建設に要する事業費については、この記事の中でも「54億円」「50億円」「100億円」といった概算あるいは試算の数字を示してきたが、67年8月21日付で、札幌市オリンピック準備室が競技施設費の最終案を明らかにしたとある。

競技施設の最終案を報じた67年8月21日付。この後、さらに見直しが行われた※クリックで拡大

 総額は81億400万円。国が施工主体となるのが大倉山ジャンプ、真駒内スピードスケート、真駒内屋内スケート場、真駒内バイアスロンの4競技場で、施設費は全体の8割近くを占める62億3000万円。組織委は手稲山ボブスレー、手稲山リュージュ、恵庭岳滑降、真駒内距離の4競技場と真駒内スケート練習場の5施設で6億6700万円、地元が月寒屋内スケート、美香保屋内スケート、手稲山回転、手稲山大回転、藤野リュージュの5競技場を受け持ち、12億700万円となっている。

 この14施設のラインアップは、さらに変更が加えられることになる。その1つが大倉山ジャンプ競技場だ。最終案の段階でも既存施設を改造して70m級と90m級を併設する計画だったが、「併設すると七〇㍍級ジャンプ台がどうしても見劣りし、また観覧席にも死角ができるとしてほかの場所に移すよう、要望がでた」(67年12月15日付)などの理由もあり、施工・技術、運営面からの検討を重ねた結果、併設が困難と判断し、分離建設に落ち着いた。

 そんな経緯で誕生したが、宮の森70m級ジャンプ場だ。72年2月6日、笠谷幸生、金野昭次、青地清二の3選手がメダルを独占するという快挙を遂げる舞台となる。

日本の3選手が表彰台を独占する舞台となった宮の森ジャンプ場
(2018年10月18日撮影)

 このほか、組織委が施工主体の真駒内スケート練習場がとりやめになったため、全体の数は14と変らないが、国が4競技場、組織委が4競技場、札幌市が最終案の5競技場に宮の森ジャンプ場が加わったことで6競技場を担うことになった。

 競技場の最終的な事業費だが、組織委がまとめた「札幌オリンピック冬季大会 資料集」によると、91億9748万円となっている。

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