カジノを中核とする日本での統合型リゾート(IR)参入を巡り、世界の名だたるカジノ運営者がしのぎを削っている。4カ国31カ所でIRの開発を手掛けたカナダの投資会社クレアベストは、道内での誘致が有力視される苫小牧市に商機を見いだし、事務所を開設するなどして地域との交流や情報収集を図っている。ジェフ・パー副会長に運営方法や施設構想、IRがもたらす経済効果などを聞いた。
■自然生かしスポーツ機能も
2018年7月にカジノを中核とするIR実施法が成立。当面3カ所を上限にIR施設が設置されることになった。これを受け、大阪府や長崎県など複数の自治体は、3つの椅子を巡り誘致合戦を繰り広げている。
こうした動きに呼応し、米国、カナダ、チリ、インドでIRの開発に携わってきたクレアベストは、事業参入機会をうかがうため全国各地を視察。「経済的な開発が必要な場所」と判断した北海道と長崎県に注目した。市場調査のほか、自社の優位性を地域にPRするため、日本法人のクレアベストニームベンチャーズ社が17年に佐世保市、18年に苫小牧市で事務所を設けた。
ただ、佐世保市に関しては、投資効果を勘案した結果、18年10月に事務所を閉鎖した。入場料や入場制限を盛り込んだIR実施法が成立するまで興味を持っていたが「政府が地元のボート競走、競馬、パチンコなどに対して同じような取り組みをしない限り、IRとしては競争が難しい」との判断からだ。
今後は、より投資効果が大きいと見る苫小牧での参入に注力する。
同社が提案するIR施設構想は、北海道の自然がコンセプト。「自然を壊さないよう全体的に低層階のデザインとした」と説明する。収益の半分以上を稼ぎ出すカジノ施設は全体の3%程度とし、ホテルやショッピング、レストランに加え、劇場などエンターテインメントも提供する。
さらに「富裕層だけでなくファミリー層も楽しめるようにしたい」との思いから、スポーツにも力を入れる考えだ。ラグビーやアイスホッケーの競技場、プロ選手がトレーニングできる施設を構想。近場でゴルフ場を運営する企業との連携も視野に入れる。
事業費は2000億円程度を試算。働き手については「地元から5000人程度を雇用する」とみている。アクセス手段はJR新千歳空港駅を最寄り駅とし、「モノレールを設けるといった話が出ているので、バスも含めてそうした利用になるだろう」とイメージした。
運営に当たっては、海外から担当者を呼び、地元にノウハウを提供する。チリでの事例を引き合いに「当初はカナダから担当者を呼んだが、地元チームを作って研修を進めたことにより、彼らだけで運営できるようになった。苫小牧でも同じことをするだろう」と示唆。ギャンブル依存症対策も含め、全面的にサポートする姿勢を示した。
9、10日に札幌市内で開かれた北海道IRショーケースでは、ビジネス、一般公開を含め約7000人が来場し、関心の高さがうかがわれた。同社は特別協賛としてブースを構えるなど、世界のカジノ運営7社が出展し、事業参入の意欲をみせた。
IRの道内誘致を巡って道は、まだ正式な判断をしていない。パー副会長は多くの事業を手掛けてきた経験から、「どの地域も経済効果は出ている。このチャンスを見逃してほしくない」と助言する。