幕別町忠類に三角、四角、五角で構成されたユニークなドームが完成―。アルキメデスの立体とも呼ばれる半正多面体を模したこの建物は忠類在住のある芸術家のアトリエとして建てられた。設計した1級建築士事務所オフィスK&Kの川村善規氏は「自分自身の集大成」と自負する。そこには建築士として約40年にわたって積み重ねてきた知識や経験が込められていた。
アトリエは、W造、2階、延べ86・4平方㍍、高さ約7㍍。壁のパネルは全て1辺が1・8㍍で正三角形15面、正方形25面、正五角形11面で構成し、半正多面体の1種である斜方20・12面体を模している。ユニークな外観だが、4号建築物に位置付けられるため構造計算の必要がないのが特長だ。
施主の岡田正樹氏は、木工や陶芸、染め織物など多分野を横断して作品を創作する芸術家。以前から多面体の造形物を作っており、自身のアトリエも自分の作品のような建物にしたいと考えていた。いくつかの設計事務所には断られたが、2017年に元々高校の同級生だった川村氏と偶然再会し構想を打ち明けると意気投合した。施工を担当した建築工房木久(本社・帯広)を含めて3者で実現性やコストを話し合いながら設計を進めていった。
平面図を描くには、壁の各パネル同士がどういう角度で接するかを割り出す必要があった。川村氏は岡田氏の元図を基にCADを使いながら計算。天井を水平にするには、各所の角度は小数第4位まで出さなければならなかった。パネルの施工は、それぞれの枠を組み立ててから板をはめ込みサイディングを施す手順を取った。枠の組み立ては設計図の通りにほぼ狂いがなく終えることができた。板のはめ込みは、現場にパネルの部分に番号が振られたペーパーモデルを用意し、どの板をどの枠にはめるか一目で分かるよう工夫して進めた。
川村氏は1950年生まれ。日大理工学部建築学科卒業後、岩田建設(現・岩田地崎建設)勤務を経て、81年に萩原建設工業に入社。建築部で帯広の森体育館や上士幌町の生涯学習センターの新築、カルビーポテト帯広工場増改築などに携わった。帯広市内の建築技術者で調査研究に取り組むNPO法人「Bau(バウ)集団」の代表を務める一方、05年の独立後は、市内の設計事務所で組織する「まちの建築家あくてぃぶネット協同組合」の設立にも関わった。帯広市内にある旧双葉幼稚園園舎も萩原建設工業時代に改修で関わったことをきっかけにその後の重要文化財指定に協力。保存活用を進めるNPO法人「双葉の露」では理事と事務局を担当している。
アトリエは在来工法で建てられ主に中心の柱4本や梁の跳ね出しで建物を支えている一方で、パネルの壁はカーテンウォール。約40年のキャリアを通じて木造住宅とビル建築の両方に精通していたことからこそ生まれた発想だった。
アトリエは25日から5月中旬まで一般公開する予定で、岡田氏がこれまで創作した作品も展示する。岡田氏は「訪ねてきた人に対して自分の生活をのぞいてもらえるようにしたい」と話す。アトリエは、自身の思いを巡らす場所であることから「里山考房」と命名した。芸術家の自由な発想を具現化するために一人の建築士がこれまでの蓄積を遺憾なく発揮したこの建物で新たな創作活動に取り組む。
(北海道建設新聞2019年04月12日付4面より)