独創的な田園住宅づくり 20年近い継続的取り組みに評価
辻野建設工業(本社・当別)などが手掛ける「当別町里山の継続的な田園住宅づくりとコミュニティの形成」が、日本建築学会の2019年学会賞(業績)に選ばれた。里山の田園住宅という新たな住宅地モデルを開拓し、独創的で質の高い居住地づくりを実践。20年近くの時間をかけてソーシャルネットワークを構築し、それらを基盤に田園住宅を創造し続けていることが評価された。
同社の辻野浩社長と岐阜市立女子短大の柳田良造名誉教授、当別町農村都市交流研究会の3者で受賞した。
当別町金沢地区での田園住宅づくりの取り組み。1998年施行の「優良田園住宅の建設の促進に関する法律」をきっかけに、全国各地で宅地開発プロジェクトが立ち上がったが、大半は一過性で成功事例は少ない。20年近く続いていることも受賞の理由となった。
99年から2002年までの第1期は5戸を整備した。水道や電気など最小限の設備にとどめ、他の田園住宅で施されている道路や区画割りによる造成型の基盤整備は進めなかった。山裾の地形を生かし、数戸のまとまりを開発単位とした。
18年までの約20年間で32棟、89人の移住者を確保した。開発単位を小さくして持続的に進めた考え方が、プロジェクトを地域に根付かせ、持続させてきた最大の要因だという。
土地選びに一工夫加えている。プロジェクトは始めから良き隣人関係を築こうという目的意識があり、土地選びや建物設計、土地利用に関してコーポラティブ方式を参考にしている。建てる前から互いが顔見知りになる機会を設け、年2回ほどの住民集会には移住を検討し始めている人も参加する。
景観をつくる暮らしも特徴。里山を背景に、横に長い切り妻屋根の住宅が道路に沿って伸び、林や菜園、果樹、家畜などと一体となって田園暮らしの生活を表現している。付近の道路を走る来訪者の目を楽しませ、移住のきっかけにもなっているという。
初期に移住した人たちの中には当別田園住宅暮らしをリタイアし、街中暮らしに戻る人も出始めた。そんな中、市街地に庭付きのテラスハウスを計画するなど、新たな動きが生まれている。
辻野社長は「受賞はうれしい。地域に密着した当別の建築会社と、地域を俯瞰(ふかん)できる町外の建築家による連携が、衰退していた集落を人口増に導くなど面白い動きにつながったと思う。今後は町有林を生かした林間放牧などをしてみたい」と話している。
贈呈式は30日午後3時から都内の建築会館ホールで開かれる。