ISTロケット 宇宙に

2019年05月13日 16時00分

 インターステラテクノロジズ(本社・大樹、IST)は4日、大樹町の自社実験場で観測ロケットMOMO3号機の打ち上げに成功した。早朝の青空に飛び立った機体は高度100㌔を超え、日本の民間企業が単独開発したロケットでは初となる宇宙空間到達を果たした。初号機打ち上げから3年での悲願達成。その成果は30年以上にわたって宇宙のまちづくりを掲げてきた大樹町にとって大きな実績をもたらした。(帯広支社・太田 優駿記者)

■打ち上げ成功し産業化へ

4日に大樹町から打ち上げられたMOMO3号機(IST提供)

 ISTは2013年に大樹町で設立したロケットベンチャー企業。低価格の超小型人工衛星打ち上げサービスの開始を目指してロケット開発を進め、17年から2回の打ち上げ実験をしている。

 3号機は全長9・9m、直径50cmでエタノールと液体酸素を推進剤とする。打ち上げ費用は約5000万円。前回の2号機から改良を重ね、釧路製作所(本社・釧路市)が製造した実験台を使い、機体を立てた状態の燃焼実験をこなして本番を迎えた。

 打ち上げは大型連休中の4月30日から始まり、初日はISTが用意した有料席に300人、地元建設業者も多く協賛した町多目的航空公園のパブリックビューイング(PV)会場には道内外から2650人が集まった。鈴木直道知事が就任後初めて視察し「未来志向的な挑戦を応援したい」と宇宙産業への期待を語った。

 しかし、予定していた30日の打ち上げは機体トラブルで見送り。その後も強風に見舞われ延期となった。ISTは急きょ、関係機関と調整して当初の予定にはなかった早朝の時間帯を設定した。

 迎えた4日午前5時45分、機体は青空へ伸びていき、240秒後に高度113㌔の宇宙空間に達した。PV会場には早朝にもかかわらず1317人の観客が集まり、打ち上げ成功と宇宙空間到達が分かると大きな歓声に包まれた。

 打ち上げ後の記者会見でISTの稲川貴大社長は「民間初のロケット射場が完成した。この成功で北海道、大樹町に宇宙港となる実績を残せた」と成功をかみしめた。

 堀江貴文取締役は今後のビジョンについて「5年以内に人工衛星を搭載したロケット『ZERO』を打ち上げて産業化、10年後には大型ロケットを開発して有人飛行、20年後には社名にもある恒星間(インターステラ)飛行を考えている」と明かした。

 日本が宇宙ビジネスで世界一となれる可能性については「地理的には三方が海に囲まれアメリカより有利。輸出規制が厳しいロケット部品も素材があり、射場もあるので潜在性は高い。ニセコだって世界的に見てあれだけ良質な雪が資源としてあるのは地元民では気付かなかった。宇宙と日本も同じようなものだ」と考察。また大樹町を宇宙港として発展させたい思いも披露した。「もっと投資し、工場を大きくして、人を雇って地域の産業振興に寄与したい。次々とロケットが上がれば関連産業も立地してくる。町だけでなく北海道にとっても明るいニュースになるだろう」と宇宙産業で町や道内が発展する未来を描いている。

■衛星搭載実現へ協力体制

 「ロケットはあくまでスタートなんだ」―過去2回の打ち上げ失敗時に大樹町の酒森正人町長や地元の商工者らは口をそろえた。初号機打ち上げから3年がたち、ようやく立ったスタートライン。酒森町長は「種子島、内之浦に次ぐ国内3番目の宇宙の窓口となった。国や道、民間企業の協力を受けながら衛星搭載ロケットの飛び立つ舞台を造っていく」と次のゴールを見据えている。

 初号機は打ち上げたものの目標高度に達せず、2号機は発射後に墜落炎上と失敗に終わったが、この3年で町の様相は変わりつつある。市街地にはコンビニやドラッグストア、飲食店が新たに進出し、今回の打ち上げ前には後援会が中心となりISTを応援するのぼり50本を設置した。過去3回の打ち上げを見学した帯広市の上田茂輝さんは「町民の協力や地元の盛り上がりが回を重ねるごとに増している。町内のお店や関連イベントも初回からかなり充実した」と実感している。

 発射まで要した3日間の見学者は町の人口を上回る6197人。パブリックビューイング会場で町内の飲食店や商工団体が運営する屋台も初回打ち上げから徐々に増加し、今回は延期後も打ち上げまではと自主的に出店した店舗もあった。

 十勝管内でも宿泊施設がほぼ満室、レンタカーの手配が困難になるなどの影響をもたらした。更別村の西山猛村長は「打ち上げのたびに村内の宿泊施設は満杯で道の駅も大盛況で売り上げが倍増する」と効果を感じている。

 町は既に施設整備を見据えている。2018年11月に示した構想ではIST実験場南部の拡張と組み立て棟建設、町多目的航空公園にある1000mの滑走路を300m延伸し、新たに3000mの滑走路を整備することを盛り込んでいる。

多くの観客が集まったPV会場の町多目的航空公園も整備を検討している

 ことし1月には町や帯広市、陸別町、管内民間団体などが北海道航空宇宙企画(HAP)の設立準備会を立ち上げ、5月下旬にも射場調査会社を設立する予定。構想を具体化させ、早ければ20年度中に関連施設が着工する可能性もある。

 日本政策投資銀行が17年にまとめた新射場を大樹町に整備した場合の道内経済波及効果は観光を中心に年間267億円。道内総生産を151億円押し上げ、約2300人の新規就業を誘発すると予測している。しかし、試算は年12回の打ち上げが前提で現在の年1回ペースでは程遠い。また経済効果の中心となる観光では集客力こそ証明したが、施設の充実やアクセス面で課題が残る。

 国内では宇宙開発の動きが加速している。特に和歌山県ではキヤノン電子などの出資するスペースワン(本社・東京)が21年度の人工衛星搭載ロケット打ち上げを目指し、本年度から串本町で射場建設を進めようとしている。国の射場誘致において最大のライバルだ。

 打ち上げ成功はISTと町の悲願であると同時に、宇宙のまちづくりへの重要な一歩を踏み出した。酒森町長は「まずはしっかりした射場が必要。可能なら他のロケット会社も参入できるようにして町の発展を築いていけたら」という。宇宙のまちづくりはここから本当のスタートを迎えようとしている。

(北海道建設新聞2019年5月10日付1面、同13日付1面より)


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