モンゴル通信「ゲル地区再開発」 NGO組織AML発

2019年05月15日 12時00分

建設会社のO・バトサイハン社長に聞く

バガナット・ウルグー社のO・バトサイハン社長

 【ウランバートル=AML】衛生・環境面で問題のある旧地域から、新築マンションを中心とした住宅街へ。モンゴルの首都ウランバートル市郊外で、テント式住居「ゲル」の密集地区を再開発する動きが盛んだ。市の都市政策だが、成否は実施業者の手腕に掛かる部分が大きい。再開発の成功実績を持ち、現在日本からの投資を募っている建設会社がバガナット・ウルグー社だ。O・バトサイハン社長に実情を聞いた。 (Z・ボルギルマー)

 

 

再開発で集合住宅5000戸 大規模なインフラ整備も

 ―ゲル地区の再開発でマンションを建てた。

 再開発はウランバートル市議会が2013年に採択したプロジェクトで、提案者は当時の市長だ。同じ年に建設会社の入札があり、合計24のゲル地区再開発に30社超が応札して、落札した業者の一つが当社。契約では、立ち退き交渉と整地、建設を当社負担で行い、地域の配管・道路などインフラ整備の財源は市・国が確保するスキームだ。

 ―再開発前の地域住民が今、新築マンションで暮らしている。

 当社が開発しているのは、都心から5・3㌔離れたバヤンズルフ区第8地区の土地51・3ha。このうち約20haは国の施設である防衛大学があるのでそのまま残し、30・3haの敷地内で住宅を整備する事業を13年5月に始めた。

 この地域では180世帯がそれぞれ700m²の土地を持ち、合計220のゲルが建っていた。計画では最終的に5000戸分の集合住宅を建てるが、第1段階の450戸分が15年6月に完成し、以前のゲル住民が全員入居した。彼らが満足している姿を見られたのはうれしい。

 ―公共インフラ整備はどのように。

 ゲル地区はもともとインフラがない。当社は高さ3m、幅3mのトンネル型地下埋設施設を長さ2㌔にわたって整備し、上下水道・温水暖房・通信・電線配管を通した。これだけ大規模な整備は国内初で、以前は別の会社が500m以下の実績を持つ程度だった。また、これまでモンゴルでは上物を建てた後に配管を引いていたが、今回は建設前に整備した。

地下を通る配管インフラ

 ―30haのうち集合住宅の割合は。

 計画では住宅のほか、学校2校と幼稚園3園、それから文化会館を建てる。学校では児童・生徒計960人、幼稚園では計240人を受け入れる。これらを合計5・3haの敷地で開発し、ほかに緑地帯として16ha、サッカー場などのスポーツ施設に5ha、残りは道路に割り振る。元の居住者全員が集合住宅に入ったので、これ以降できる住宅は市場取引で販売する。住宅の一部は国で買い上げ、公務員住宅や福祉住宅として使う方向で協議している。

 ―各戸の販売価格は。

 床面積が30―70m²で、1m²当たり150万―160万トグリグ(1トグリグ=0・043円換算で約6万5000―6万9000円)だ。相場より少し安い。貧困対策が目的の一つなので、高級住宅ではない。

 

高金利や個別交渉、負担大きく 確実性向上へ日本の投資募る

 ―直面している問題は。

 資金だ。今まで自己資金と銀行からの融資で実施してきたが、モンゴルの商業銀行の金利は高い。ハス銀行という民間銀行から今受けている融資は年利15%。今、政府系の「開発銀行」に低利融資を求めており、この銀行は年利11%での融資を検討している。

 今まで最も困難だったのは、地域住民全員にプロジェクトを説明して、土地の明け渡しと集合住宅入居について合意を得ることで、半年かかった。今回の事業は、市の入札で落札しても、住民の合意を得られなければ最終決定にならないという条件があった。45日間にわたって住民に周知し、住民投票にかけて初めて実施が決まった。それから個別交渉を経て、全住民と契約を結んだ。

 ―どんな交渉か。

 土地の価格評価を、地主である住民に納得させることは簡単ではない。評価額はさまざまだが、結果、1件平均で3億5000万トグリグ(約1500万円)にも達した。また開発期間の2年間、180世帯に別の賃貸住宅に住んでもらう必要があり、この家賃は当社が払った。住む賃貸は住民それぞれが選ぶ。当社の家賃負担は1件当たり月30万―80万トグリグ(1万3000―3万5000円)。2年間で相当な経費を使った。

 ―国や市は負担しない。

 こうした再開発の経験を持つ日本や中国、韓国、トルコなどの例を研究したが、中国では、土地を渡した住民には国から一時的な住居が提供されるそうだ。モンゴルでは落札した企業が全てを負担する。このため、再開発が計画通り進まない地域がたくさんある。

 当社のプロジェクトは、住宅の完成・入居を実現したのはもちろん、石炭ストーブの煙を出していたゲルの煙突1000本をなくし、また地域の土壌を全て入れ替え・消毒するという成果を上げた。資金的な困難があっても、事業の成功は可能だと市民に見せることができた。日本からの投資があれば事業の確実性が高まることは言うまでもない。

 ―社長自身と会社について説明を。

 私は1982年から87年まで、旧ソ連・レニングラード市(現ロシア・サンクトペテルブルク市)の建築エンジニア大に留学し、帰国して軍の工兵部隊で働いた。この時期にウランバートルの住宅地や工業地帯の開発に関わった。96年に起業して、現在まで社長兼エンジニアとして仕事をしている。当社は都市整備や建設事業で20年以上の経験を持つ。国がまとめる建設業売上高ランキングでは、2014年までに国内トップ10に4度入った。

 【注釈】ゲル地区=「ゲル」と呼ばれる遊牧民の移動式天幕型住居を固定家屋として暮らす人々が集まった地区。首都ウランバートルの郊外に広がる。

(北海道建設新聞2019年5月15日付1面、同4面より)


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