どん底から再生 上村建築設計の軌跡

2019年08月04日 16時00分

 6月に開かれたルスツリゾート大浴場新築の竣工式。設計・監理を務めた上村建築設計の上村福里(うえむら・ふくのり)社長は安堵(あんど)の表情を浮かべていた。同社の前身は2017年10月に破産した協立建築設計(東京)の札幌支店。大浴場の設計は札幌支店時代に請け負ったが、破産という一大事を乗り越えて立ち上げた新会社が竣工まで一貫して業務を遂行することができた。どん底を経験した上村社長が奇跡の再生への一部始終を振り返る。(建設・行政部 大坂 力記者)

前身は協立建築設計札幌支店 予期せぬ破産に直面

協立建築設計への思いを吐露する上村社長

 協立建築設計の創業は1959年。本社は住宅系の受注が7割を占めたが、道内では各デベロッパーと設計事務所のつながりが既にあり受注が難しかったため、07年に開設した札幌支店では官公庁施設を中心に受注を進めていた。

 しかし次第に会社の雲行きが怪しくなる。本社が行っていた外注費の支払いが滞るようになり支店にも問い合わせの電話が寄せられた。そうするうちに17年10月25日、破産管財人から会社の破産と全員解雇の知らせを受けた。

 上村社長は「破産はリーマンショックの影響」とみる。デベロッパーからの受注が止まり仕事がない中で給料を支払う状態になり、収支のプラスマイナスが逆転したという推測だ。

 財務体質の悪化で外注費の支払いが滞り、幹部社員の給料が支払えなくなると社内の人材が流出。優秀な技術者がいなくなったため難易度の高い建物は受けられなくなり、退職者と付き合いがあった顧客からの発注も来なくなるという悪循環に陥った。一方、札幌支店は「住宅系をほとんど扱っていなかったためリーマンショックの影響は受けなかった」ことから受注を保っていた。

 当時について「経営悪化で規模縮小はあり得ると思っていたが、破産は想像してもいなかった」と振り返る。

 上村社長は1948年、宮城県仙台市生まれ。東北大工学部建築学科卒業後、72年に戸田建設入社。協立建築設計の社長だった大内達史氏とは同社在籍時に知り合った。「毎日暮らすなら東京より札幌の方がいい」という本人の希望もあって37年間一貫して戸田建設札幌支店に所属。その間に培った道内関係者との濃い人脈を見込まれ、09年に定年退職したタイミングで札幌支店長として迎え入れられた。

 上村社長は大内氏について「尊敬していた。最終的に何であのようになったのか…。支店長として適切なアドバイスができなかったのが非常に悔しい」と話す。破産は最終的に顧問弁護士が提案したという。日本建築士事務所協会連合会の会長を務めるなど高いカリスマ性を発揮したが「相談相手がいなかったのでは」。本人と周りの間にできた距離が落とし穴になったと指摘する。

顧客の信頼が起業後押し 札幌支店分社化計画が土台に

 2017年10月、破産という一大事に直面した協立建築設計札幌支店だったが、偶然の産物が一つあった。それは、破産の約1カ月前に済ませていた新会社の登記。道内の官公庁の設計業務は地元の要件がないと入札参加が難しいことから支店は以前から本社に分社化を訴えていた。しかし反応が芳しくなかったため登記の事実を持って掛け合おうとしていた矢先だったのだ。上村福里社長は「支店の経営や社員のことを考えると分社化して独自展開したかった」と発端を話す。

 このように会社設立の土台が整っていたが起業を後押ししたのは取引先からの声だった。破産の報告に出向くと、驚きとともに「仕事を続けられないのか」と言われた。顧客からすると依頼した業務が中断したらプロジェクト自体が頓挫してしまう。継続を求める声に押されて起業を決意した。破産管財人からも「一つぐらい明るい話題があった方がいい。続けるなら応援する」と言ってもらえた。

 上村社長は支店の仲間全員が付いてこなければ諦めるつもりだった。「私はずっとサラリーマンでこの年になって1人でできるわけがない。ただみんなが生活を確保し人間的にも成長できる場は設けた方がいい」と考えていた。新会社に移るか意思確認すると全員が承諾。「上村建築設計」としていよいよスタートラインに立った。

 取引先からは、つぶれてまた立ち上げたばかりの会社に頼んでいいのかと不安視されることもあったが会社概要を手作りし説得に当たった。会社の担保についても説明を求められたが、ちょうどその時に日本政策金融公庫など3金融機関が連携して展開するどさんこ創業サポートの融資を受けることができた。

 その後、順調に受注を重ね社員の待遇も破産前と同じ水準を保っている。破産前から関わり大きなプロジェクトだったルスツリゾート大浴場新築はことし6月に竣工。竣工式では、破産の際に業務継続を強く要望した加森観光(札幌)の加森公人会長から感謝状を受け取った。

6月に開かれたルスツリゾート大浴場新築の竣工式。新会社が軌道に乗ったと感じる瞬間だった

 上村社長は今後について「設計業務はこれから厳しくなる。間口を広げておかなくてはいけない」と危機感を持つ。都市計画関係の専門家である金田一淳司専務を中心に大きなプロジェクトに関わりさらに個々のプロジェクトにも生かす体制を組み立てたい考えだ。

 札幌支店の分社化を考えていた時、会社を起こした段階で現役を退く覚悟だった。しかし予期せぬ会社の破産、信頼関係を築いていた顧客からの後押し、そして社員たちが付いてきてくれたことから、新会社の安定経営が最優先事項となった。会社が軌道に乗った今、新たな展開に夢を膨らませている。

(北海道建設新聞2019年7月31日付、8月1日付の1面より。Web掲載にあたり1本の記事に再構成しています。)


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