深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り 旭イノベックス 中村泰男専務

2019年08月19日 19時00分

中村泰男専務

共存共栄の環境が重要

 札幌を中心とした再開発で活況にある鉄鋼業界。北海道日本ハムファイターズのボールパークやニセコのリゾート開発、自治体庁舎の建て替えなど、先行きの景況感に曇りは見えない。その中核を担うのは鉄骨加工業者。北海道機械工業会鉄骨部会長を務める旭イノベックス(本社・札幌)の中村泰男専務に、S造やSRC造が絡む市場感を聞いた。

 

 

 ―鉄骨市場の業況を。

 2011年度を底に良くなっている。現状、北海道のファブリケーター(鉄骨加工会社)で赤字企業は1社もないはず。

 ファブは請け負いならぬ〝請け負け業〟体質が染み付いていたので、仕事があっても経営内容が良くなかった。僕自身も教育委員を務めたが、全国鉄構工業協会の指導が進み、個別原価計算の手法が定着した。今は、どの企業もコスト意識を持って経営している。

 全国のファブが普通に働いてこなせる量は年間480万―500万㌧。しかし18年度は508万㌧、17年度は520万㌧だった。個人的には490万㌧程度が良い水準と考え、それ以上になると残業が伴う。働き方改革が進められる中、対応に苦慮している。

 ―ファブ業界の課題は。

 人手不足の打開策には新3K(給与、休日、希望)が大切と考える。業界で働く人には良い待遇にあってほしく、利益を出すのは必須条件。安値受注は最悪の形だと思う。

 現状の大型物件は、ファブ数社で対応するのが一般的になっている。1社で総取りすると、地元の常連客から依頼を受けても応えられない。腹八分目で備えている。ファブ1社で北海道の鉄骨は賄いきれないので、共存共栄の環境が重要だ。

 「どんどん注文が来るなら工場を大きくすべきだ」という発想もあるだろうが、それで失敗したのがバブル崩壊後のファブ業界。機械のリニューアルはすべきだろうが、工場の拡張は現実的ではない。

 ―今後の市場感について。

 最近まで北海道の鉄骨市場は今後10年間、安泰だと思っていた。しかし、昨年秋ごろから状況が変わった。米中貿易戦争と英国のEU離脱、イラン問題、日韓の問題。これらを火種とした日本経済への影響が懸念される。この4つが解決すれば今後10年は安泰だろう。

 札幌市内の再開発や日ハムのボールパーク、ニセコや富良野のリゾート開発、新幹線駅舎、自治体庁舎など、鉄の物件はまだまだある。

 ―自社のトピックスを。

 高度の技術が必要な難しい鉄骨を主体にしていこうと考えている。最近は国立アイヌ民族博物館や道議会庁舎など、曲線が特徴の建物を手掛けた。3次元CADを生かし、より高度な製作図を描けるスタッフ3人を2年半かけて育てた。原寸図のスタッフも19人いる。難しい鉄骨が得意なファブであることを定着させたい。

 ―施主やゼネコン、設計会社への要望は。

 工期を十分に取ることを求めたい。一般的なプロジェクトでは、設計会社による図面ができてゼネコンが決まり、その上でファブが製作図を描く。それをゼネコンに見てもらい、さらに設計会社にチェックしてもらう。この図面チェックバックが昔よりも遅くなっている。これも人手不足などが原因だろう。それらを見越した工程を考えてほしい。(聞き手・佐藤 匡聡)

 中村泰男(なかむら・やすお)1950年5月、紋別市生まれ。72年に旭鉄工所入社、87年企画部長。93年から旭製作所と兼務し94年に同社取締役営業部長、2002年常務、03年社長就任。07年に旭鉄工所、旭製作所、旭イノベックスが合併し「旭イノベックス株式会社」が設立。専務取締役に就き、現在に至る。

(北海道建設新聞2019年8月14日付2面より)


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