建設産業界に新たな動き 採用人数絞り込みも
人手不足に悩む建設産業界。中小企業の多くは新卒者の確保に苦慮し、自社の存続に不安を抱く経営者も少なくない。学生優位の売り手市場が長らく続く中、先々を見据えて募集人数を絞ったり外国人の登用を考えたりするなど、企業側の新たな動きも出ている。就職戦線の今を追った。
「長いこと大学3年生向けにインターンシップをしてきたが、ここ数年は大学生の採用がゼロ。求人活動の戦略を根本的に練り直そうと考えている」(胆振地域の建設会社)。
新卒者の採用に苦労している道内中小企業。学校に訪問したり求人情報サイトに登録したりしても人が集まらず、本州企業や地場大手に〝取られている〟というイメージを抱いている経営者は少なくない。
確かに「全国規模の会社を志望する際の基準はブランドで、自分が聞いたことのある会社を選ぶ。道内企業を選ぶ場合は大手志向が強い」(北海道科学大の亀山修一教授)という。
ただ、札幌工高の川村茂教諭は「2018年に進路指導部で受け付けた求人数は1040件。建設業関係はじめ、多種多様な求人がある。生徒の多くは〝できれば札幌市内で働きたい〟という気持ちが強い。最近は、道内の現場を転々としても拠点は札幌という志望が増えている」と話す。一概に大手志向とは言えないようだ。
地場大手を中心に賃上げが進み、道内建設業の給与環境は是正が進んでいる。北海道労働局のまとめによると、19年3月卒業者の初任給は大卒21万3000円、短大卒18万9000円、高卒17万8000円。ここ3年間で大卒は5000円、高卒は6000円上昇した。
「道内大手まで引き上げるのは難しいが、ここ1、2年は何とか頑張って初任給の水準を引き上げた。その効果もあってか、毎年1、2人は高校の新卒者を採れるようになった」(札幌市内の中堅土木会社)。
採用の実績が1人でもできると、翌年から〝先輩が働いている〟といった安心感を与え、後輩が次々と志望するようになってきたという。生徒を送り出す学校側も信頼が芽生え、そうした企業に太鼓判を押す。その場しのぎではなく毎年安定的に採用する持続性が、就職戦線には重要な要素のようだ。
道央地域の建設市場は再開発などの動きから忙しい。NHKの新札幌放送会館は20年1月、新しい札幌大同生命ビルは20年春竣工、札幌第一生命ビルディングは22年開業を目指している。札幌パークホテル建て替えは23年めど、北海道日本ハムファイターズの北海道ボールパークは23年3月開業予定にある。
当面は4―5年が最盛期で、その後の業況は北海道新幹線の札幌延伸や札幌都心アクセス道路などにかかっている。地方は土木が中心で、建築は庁舎や学校の建て替えなど案件が限られるため、一層不安な状況だ。
そんな中、一定の人員を採ることに迷っている企業もある。道南の生コン会社は工業高校を中心に、毎年3人ほどの生徒を採用している。しかし「その子たちが中堅になる10年後、業界にどれだけ仕事があるか心配。状況によっては余剰人員となる可能性もあり、採用人数を見直す時期は間違いなく来るだろう」(同社幹部)と話している。
(北海道建設新聞2019年8月26日付3面より)
北海道建設新聞2019年8月27日付3面では、「就職戦線異状あり(下)」として、人材確保に向けた各社の独自性PRの取り組みや、人材供給側となる大学の進路指導、就職活動の実態などを紹介しています。記事は紙面のほか、会員向けサービス「e-kensinプラス」の記事検索コーナーからご覧いただけます。