「資格・経験不問」で人材採用
設計会社の一寸房(本社・札幌)が業績を急拡大している。2019年7月期の売上高は8年前の10倍に当たる7億1000万円。今期は初の10億円超えを見通す。成長を支えるのが、通年で最大50人を超える人材採用だ。売り手市場が続く中、設計会社としては珍しい「資格・経験不問」の求人で大量採用に成功している。
広い作業空間

オフィスのあちこちに観葉植物
札幌市時計台から北に徒歩1分。一寸房の入り口ドアを開くと、あちこちに観葉植物が置かれた明るいオフィスが広がる。社員数は現在173人。東京、ミャンマーに支店があり、中国に子会社を持つが、約6割が札幌で働く。平均年齢は31歳。女性比率は3分の1で、20代の女性社員が図面に向かうのはありふれた光景だ。
社員一人一人に与えられたL字形デスクは幅160cm×奥行き120cmと大型。どのデスクにも24インチ液晶を2台並べたデュアルディスプレーを設置し、作業の快適さを追求している。
同社は鉄骨施工図をメインに、意匠、構造設計やCG、VR、測量まで幅広く手掛ける。05年の開業から4年で年間売上高1億1000万円に達したが、リーマンショックの影響で失速。11年7月期には6700万円まで落ち込んだが、そこから8期連続の増収を記録している。
社員は86人だった17年夏から2年で倍増。来夏までの1年でさらに30人程度増やし、200人体制となる見込みだ。
チームで作業
「うちは専攻も経歴も不問。僕自身も心理学専攻だった」。7月下旬、会社見学に訪れた就職活動中の大学生に、若手男性社員が説明していた。
社内で建築士資格を持つのは30人弱。資格や経験のない社員を「即戦力」にするのは、独特のチーム作業だ。
一つの案件を社員1人で担当するのではなく、完成までの工程を細かく分け、4、5人のチームで当たる。資格が必要な工程は有資格者、単純作業は新人、と分担する。「新人の成長に合わせてチームの先輩が新たな作業を割り振ってくれる」(若手社員)。社歴に関わりなく全社員が生産性を発揮する仕組みだ。
人材採用のポイントは、適性試験にある。展開図を見て立体の形状を当てるなどのペーパーテストで、設計に不可欠な空間把握能力を見る。基準点に届かなければ建築学科卒でも不採用にする。
管理部によると、この適性がない場合、仕事についていけず、退職するケースが多い。数年前にテストを導入してからは離職率が激減したという。
海外支店好調
初の海外支店をミャンマーに開設したのは13年のことだ。約30人いるうちの大半が現地採用。日本に比べれば人件費が大幅に安く、日本で受注した仕事の一部を担うことでコストを低減する。
ミャンマー支店が日本の顧客と直接商談して受注することが増えた。支店の売り上げは、直近では全社の3割近くを占めるという。昨年には中国・大連市に子会社を開設。海外拠点は今後も拡大する方向だ。
数年内の株式上場を目指している。経営計画では2年後には売上高14億円超、社員は260人前後となる見通し。本道でも異色の成長企業として存在感を高めそうだ。
2019年9月18日付北海道建設新聞3面では、一寸房の上山哲正社長のインタビューを掲載。会社の経緯や経営方針などを紹介しています。
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