深掘り

 地域経済の成長には、新たな技術シーズを生み出すだけではなく、その技術を発展させたビジネスの創出が欠かせません。〝勝ち〟にこだわる経営者らの発想やアイデアを紹介します。

深掘り 稚内市サハリン事務所 三谷将所長

2019年10月28日 12時00分

三谷将所長

商売の流れ つくりたい

 宗谷岬から見えるロシア・サハリン州には、日本領事館、北海道事務所のほか、市町村として唯一、稚内市が拠点を置いている。この7月に5代目のサハリン事務所長として赴任した三谷将氏(46)に、本道―サハリン間のビジネス交流促進について考えを聞いた。

 ―赴任して3カ月。現地の印象は。

 出張で何度も訪れていたが、住んであらためて感じるのは北海道の存在感の強さだ。ロシア国内でも、これほど来道経験者が多く、本道を身近に感じてくれている地域はないだろう。街の印象を言えば、あちこちでビルの新築、道路改修などが進んでいて、工事需要が高水準にあることが感じられる。

 ―稚内市はなぜサハリンに事務所を持つのか。

 当市はソ連時代からサハリン州の2市と友好提携を結ぶなど、もともと文化交流を中心に人の往来があった。1990年代に入ってエネルギー採掘の巨大事業、サハリンプロジェクトの施設建設が本格化し、派生する仕事で稚内の建設関連業者も数多くサハリンに渡った。中にはトラブルに巻き込まれる例があり、業者をサポートする狙いも含めて、2002年に事務所を構えた。今は現地情報の収集と提供、友好市との連絡窓口などが主な業務だ。

 ―稚内の企業以外とは関われないのでは。

 そんなことはない。例えば稚内港から製品を送るなどなんらかの形で地域にメリットをもたらす可能性があると判断すれば、市外企業に対しても、現地視察の調整を含めてさまざまなサポートができる。

 ―稚内とサハリンの間は旅客航路がない。4年前に貨客フェリーがなくなり、その後の客船運航も昨年で終わった。航路復活の見込みは。

 サハリン側と、双方が再開を目指す立場で協議している。航路を求めるサハリン住民の声は非常に強い。ただ、採算見通しの点で困難な状況は変わらず、いたずらに楽観的なことは言えない。単に船を動かすだけならお金を積めばできるが、続いていく仕組みを確立しなければ意味がない。

 ―客船がない一方、モノの輸送では一部の貨物船が動いている。

 当市の事業として貨物船をチャーターし、夏から冬にかけてコルサコフ港との間を5往復する計画だ。昨年度から続く事業で、7月の初便と10月の出航は無事に終わった。次は11月、12月、2月の予定だ。これまでの主な積み荷は建設資材、機械部品、雑貨など。サハリンはホテルや商業施設が増えていて、調度品などもニーズが高い。

 今月25日から3日間、道北9市で連携して州都ユジノサハリンスクで物産展を開く。ここで売る商品もこのチャーター航路で運ぶ。

 ―サハリンの人口は50万人弱と少ない。本道企業の進出を促すなら、ここからビジネスを拡大するシナリオも必要では。

 稚内からサハリン、サハリンから極東ロシア全域へと広がる商売の流れをつくりたい。この発想の下、昨年はカムチャツカを視察してきた。極東ロシアはモスクワ方面に比べて発展が遅れている分、やるべき仕事やチャンスが豊富にある。本道のすぐ北にある島を極東全域のハブとして捉えることで、さまざまな事業の可能性が生まれるだろう。(聞き手・吉村 慎司)

 三谷将(みたに・まさし)1973年中頓別町生まれ、稚内市育ち。97年北大文学部卒、稚内市役所入庁。日ロ定期航路対策部推進課、建設産業部サハリン課などを経て2019年5月から現職。7月に現地赴任。

(北海道建設新聞2019年10月24日付2面より)


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