広さ、割安価格で差別化
札幌市内で今春開業した「ランドーレジデンスすすきのスイーツ」「ランドーレジデンシャルホテル札幌スイーツ」が好調だ。外国人客の連泊を想定した施設で、昨年1月設立のベンチャー企業、Satisfill(サティスフィル、本社・福岡)が運営する。井上進太郎社長(27)に事業の考え方を聞いた。
―「すすきの」が4月、「札幌」が6月に開業した。それぞれどんな滑り出しか。
両施設とも極めて順調だ。7―8月の客室稼働率は9割近く、8月はほぼ満室だった。「札幌」は有力予約サイトBooking.comで思いがけず人気ナンバーワンに2カ月連続で選ばれ、予約が取りにくい状態だった。同サイトを通して、想定通り外国人客が平均4、5泊している。一方「すすきの」は予想より日本人客が多い印象を受けている。
―部屋の広さが特徴だ。
4人以上でもゆったり泊まれる部屋を、連泊しやすい価格で提供するのが事業コンセプトだ。アジアなどから家族やグループで来日する外国人客が増えているのに、ツインやダブルの部屋ばかりでは需要を満たせない。
当社施設の客屋は約40―60m²と、主な市内ホテルの平均に比べて1・5倍から2倍広い。価格は1泊2万円台からと割安にした。90m²の部屋も複数あり、こちらは5万―8万円で販売している。
―宿泊料を抑えるなら、低コスト運営が必須となる。
客室の広さ自体がコストを減らす要因になる。というのも、ホテルは部屋ごとにトイレや洗面などを備えるが、こうした水回りは建築時も、稼働後のメンテナンスでも費用がかかる。客室が広いほど1フロア当たりの室数が少なく、その分コストも減らせる。
ほかにも、例えば連泊時のベッドメイキングを有料にしている。あまり利用されず、ここに多くのスタッフを割り当てる必要がない。付属レストランなどもないため、運営は最小限の人員で回せている。
―ホテルの土地や建物は自社で持つのか。
当社は不動産を持たず、ホテル事業の企画と建築設計、それから運営を手掛ける。具体的には、パートナーとなる不動産オーナーやデベロッパーから相談を受けてホテルの事業プランを作り、パートナー側にこのプランに沿った建物を用意してもらい、運営を受託する。現在、札幌のほか福岡、東京、京都、広島で計10施設を運営している。
―本社は福岡。首都圏ではなく地方発のベンチャー企業だ。
私は横浜出身で九州に縁はなかったが、最初のホテル物件の話があったことから福岡市で起業することになった。福岡は空路と海路の両方で観光客を獲得できる国内では珍しい市場だ。官・民、金融機関のサポートが手厚い上、市が国家戦略特区に指定されていて法人税が安いのもメリットだった。
―なぜホテル業を。
学生時代に旅行予約サイトでアルバイトし、多少の業界知識があった。新卒でマーケティング会社に入ったが、知り合いの起業家に支援してもらえたこともあり2年目で独立。複数のビジネスに関わる中、多人数で泊まれるホテルが日本にないことに気付き、商機があると考えて参入した。
―今後、道内での事業展開は。
札幌ではあと2施設ぐらいが適正規模だろう。これからは旭川など、地方の拠点都市での事業も考えたい。(聞き手・吉村 慎司)
井上進太郎(いのうえ・しんたろう)1992年1月横浜市出身。2014年3月法政大卒、マクロミル入社。15年に独立し人材派遣など複数のビジネスを展開する。18年1月サティスフィル設立。