2020年東京五輪のマラソン・競歩の競技会場が札幌に決定したことを受け、コース選定や環境整備などの準備が本格化する。北海道マラソンを軸に検討しているコース選定は、12月に予定する国際オリンピック委員会(IOC)の理事会で承認を求める。大会準備には、建設業界をはじめ経済界も最大限協力する姿勢を表明。約9カ月後の開催に向けて、オール北海道で歩調を合わせ成功を目指す。
10月30日から開催した調整委員会で、IOCが猛暑対策として示した札幌開催案を協議。4者協議で、東京都は変更に伴う追加費用を負担せず、他競技は東京で開催するなどを条件に合意した。
都・組織委員会が支出したマラソン・競歩に関する経費は、別の目的に活用できない場合、都が負担しないことも整理した。
小池百合子都知事は、開催都市として同意することはできないが「最終決定の権限を有するIOCの決定を妨げることはしない。あえて言うなら同意なき決定だ」と述べた。
東京マラソンコースは都とIOCが共同開催する「オリンピックセレブレーションマラソン」への活用を検討する方針を明かした。
日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長は「札幌開催の成功に向けて、関係各位と連携を取りながら最善を尽くしたい」と話し、コースや開始時間の早期決定を要望。橋本聖子五輪担当相は「素晴らしい東京大会になるよう、政府としてバックアップしたい」と決定を受け止めた。
同日のIOCと組織委員会による合同記者会見で組織委員会の森喜朗会長は、大会まで9カ月を切っていることから早急に札幌市、道、組織委、IOCらと準備態勢を整えるとした。大会準備に当たって時間が限られていることやコスト節約の必要から、施設整備や運営面での効率化を図ることが重要と指摘し「地元関係者の協力を得て密に協議したい」と期待を込めた。
12月に予定するIOC理事会に発着地を含めたコースの承認を得られるよう準備を進める方針。
会場変更に伴う費用負担先について、IOC調整委員会のジョン・コーツ委員長は「不測の事象ならばIOCも検討するが、数字を見なければ何とも言えない」と明言を避けた。
一方で、関係者によると「9カ月しかない中で一切検討しないというような時間的余裕はない」と周辺準備を進める必要性を示した。
森会長から札幌移転の連絡を受けた秋元克広市長は「準備された関係者、楽しみにしていた人の気持ちを考えると重い決定。大会の成功に向け全力で取り組みたい」と心境を語った。その上で「コースが決まらねば課題解決は難しい」と強調。早急な事務協議を求めた。
同じく連絡を受けた鈴木直道道知事は全力で札幌市を支える姿勢を示し「北海道のみんなで成功につなげたい」と述べた。
■経済界も最大限協力
道内経済界も東京五輪の成功に向けて全面的に支援する姿勢をみせる。30年の札幌冬季五輪招致を目指す、札幌商工会議所の岩田圭剛会頭は「札幌の素晴らしさを伝えるチャンス。タイトな時間の中での準備となり、ボランティアも相当数必要だが組織を挙げて支援したい」と話す。
交通輸送を担うJR北海道も「競技運営の詳細が未定なので具体的な取り組みはまだ決まらないが、大会の成功に向けて交通事業者として全面的に協力したい」と意気込みを示した。
開催時には多くの警備員の動員が見込まれ、北海道警備業協会の小松裕会長は「北海道マラソンの実績が買われたということだが、その期待に応えられるように協会を挙げて取り組んでいきたい」と話していた。
道路管理関係者はコース設定の動向を注視する。積雪寒冷地の道路は、冬場に地盤が凍結と融解を繰り返し、舗装が波打ち、穴や亀裂が生じやすい。コースに設定された道路では、主催側の要請に応じて路面や側道を補修しなければならない可能性がある。
来春の雪解けから施工する場合には限られた工期で進めることになるが、北海道舗装事業協会の渡辺一郎会長は「選手にとって最高の舞台を提供し、世界に札幌の美しい景観を発信するため、レガシーとなるマラソン環境整備に舗装業界としてもできる限りの貢献をさせていただきたい」とコメントした。
札幌市と道が行政懇談会 オール北海道で体制づくり
札幌市と道は1日、札幌市内の知事公館で2019年度行政懇談会を開いた。東京五輪のマラソン・競歩の札幌開催が正式決定したことを受け、限られた時間の中、連携して準備体制づくりを進めることで合意した。
懇談会には市から秋元克広市長や副市長ら、道からは鈴木直道知事や副知事ら各5人が出席した。
東京五輪では道と市が連携強化し、組織委員会、競技団体、関係団体と実務レベルの協議を加速化するための体制構築を図ることで合意。道が広域自治体として市を支えオール北海道体制で取り組むことを決めた。
懇談会後、秋元市長は記者団に対し「具体的な取り組みとしてコース選定などを進めることになるが、交通規制などにかなりの人員が必要」と実務的な準備に向け体制づくりが必要と強調した。
札幌移転に伴う追加費用については、東京都以外で開催予定の競技にかかる費用の負担原則を引き合いに「組織委員会が負担する」との認識を提示する一方、道路の補修など市施設の整備費用が発生した場合は恒常的な措置として「市が毎年計上している予算の中でやりくりする」と話した。
鈴木知事は「札幌開催は本道の魅力を世界に発信できるチャンスだ。限られた時間・人員で効率的に業務を進めていく必要がある」と抱負を述べた。