受け入れ施設整備に先行投資
■変わる空港ビル 県民の評判良く
全国で進む空港運営権の民間委託。本道でも北海道エアポートが約4290億円という巨額の設備投資を掲げ、2020年1月にはビルの経営を始め、国土交通省や道、空港所在自治体と道内7空港一体運営のパートナーシップ協定を結ぶ。ただ、地域への波及効果は未知数。3年前に運営権を移管し、空港民営化の皮切りとなった仙台空港は、航空路線と旅客数の増加が地域に着実な経済効果をもたらしている。
「閑散としていた空港ビルがにぎわっていて県民の評判も良い。民営化前の運営体制だとここまでできなかったのではないか」。宮城県土木部空港臨空地域課の伊藤大輔主幹は、17年4月にリニューアルした仙台空港1階フロアについてこのように話す。
国内線到着口を出ると、東北6県を描いた地図のモニュメントが出迎えてくれる。1階には、カフェやレストラン、コンビニがあるほか、主要レンタカー会社が軒を連ねる。「みちのく観光案内」は業務をJTBに委託しているため、空港にいながら宿泊施設や新幹線などの予約が可能だ。
ランナーズポートという特徴的なサービスも展開する。聞くと、空港の周辺でマラソンやサイクリングを楽しめるよう有料シャワールームを設けたのだと言う。長旅に疲れた旅行者もリフレッシュできると考えると実に細やかな配慮がうかがえる。
東急・前田建設工業・豊田通商などで構成するSPC(特定目的会社)の仙台国際空港が旅客機運航から空港ビルまで一体となった運営に乗り出したのはわずか3年前の16年7月。国からの業務引き継ぎを順次進めて、19年春には出向していた職員も引き上げ、民営化から3年を経て民間企業が完全に主体となった空港運営が始まったばかりだが、既に民営化の効果は顕著だ。
SPCを率いる岩井卓也社長は、10月に名取市で開催された空港フォーラムで、収益確保のためには「旅客数の増加が最初。空港への需要がないと開発はうまくいかない」と空港運営の前提条件を語った。新規路線の就航は空港の利便性向上と旅客数増加においては最大の起爆剤ともなる。
■LCC誘致に力 出雲便や国際線も
東北から首都圏への移動というと、新幹線のイメージが強い。仙台空港も羽田便は未就航で成田便のみの運行。ただ、東京以西の路線充実や国際線、LCC(格安航空会社)の新規就航の拡充に力を入れている。
17年には国内中核空港に拠点を置くピーチアビエーションを誘致し、関西国際空港、新千歳、台湾への路線を一挙に取得。ほぼ主要都市の路線は網羅した上、島根県は出雲便などローカルトゥローカルの新たな独自路線も開拓を進める。
昨年は既存の空港ビル西側にLCC新規受け入れを視野に入れた旅客搭乗施設を増設し、航空機の大小を問わず運用する駐機場のマルチスポット対応といったハード整備を実施。安定就航を求めるエアラインに魅力的な環境づくりに先行投資した。
そのかいあって、就航路線は、民営化以前の国内線1日当たり49往復、国際線1週当たり10往復に対し、国内線が57往復、国際線が33往復まで増加。旅客数も15年度311万人、16年度316万人、17年度が343万人と堅調な増加傾向にあり、出雲線の新規就航、伊丹線や台北線の増便も重なった18年度は過去最高の361万人に到達した。
岩井社長は「提案時には見えなかった部分もあったが、5年目の410万人という目標がいよいよリアリティーのある数字となってきている」と、着実な前進に自信をにじませた。
(北海道建設新聞2019年12月7日付1面より)